31 Dec 2023

 



Perfect Day

 今年も暮れてゆきます。

 午後、「ナマモノ」のラベルが付いた宅急便が届きました。「ん、ナマケモノ?」と一瞬読み間違える。それほど自分、ノロノロしている。それでもここ数日は、小掃除に庭掃除、神棚、仏壇の掃除、しめ縄飾り、買い物など、それらしいことに費やして今に至る、です。

 今年は三つの作品に大きく感動し、影響された年でした。ひとつはNHKの朝ドラ「らんまん」。それから東京都現代美術館のホックニー展、それから先日観てきたヴィム・ヴェンダース監督、役所広司さん主演の映画「Perfect Days」。この三つにはきっと何か共通点がある。少なくとも、自分の中では。そうでなければ、こんなに圧倒的に影響を受けるわけがない。

 夜空の大三角形のようなこの三作品の教えを胸に抱きながら、精神的に温かな気持ちで一年を終えることが出来ることが有難いです。

 今年は今までと違う場所ですが、夕刻「終の日の入り」も拝んできました。来年もこの気まぐれブログ、時々覗いてやってください。よろしくお願いします。

 どうぞ皆さま、よいお年越しを。



2 Dec 2023

 


〇月✕日

 一昨日から昨日に掛けて、我がPCが反乱を起こし、かなり参っていました。皆さんも経験がおありでしょう。毎日便利に使っている分、フリーズで画面真っ白になったりしたら、頭も真っ白。心臓は鼓動を速め、いやな汗が吹き出し、この世の終わりのような気持ちになる。

 タブレットで色々検索し、試みて、そして辛抱づよく1時間も2時間も待ってみたり、放電作業をしたりして、ああ、直った!と思いきや、翌日またトラブル。いよいよオシャカ?と諦めかけた時に、やっと元に戻ってくれました。しかも前よりサクサク動くではありませんか。PCに、おちょくらたような気分です。

 おそらく何かのアップデートかバージョンアップ? よくわかりません。でも、とにかくホッとしました。

 こういう時にいつも考えるのは、「こんなこと、自分にいつまで出来るんだろう」ということです。こんな私でも今やデジタル画に夢中なことだし、やれるところまでは頑張りたい。お若い生徒さんや友人たちに、私の年齢でZoomを使ってオンラインレッスンをしていることを、よく誉めて頂きます。そうか、この先は彼女たちに質問して、なりふり構わず助けてもらえば、何とかやってゆけるかもしれないぞ。何卒よろしくお願いします。

 AIの世界は急速に進化し、偉い先生ががさっきTVで語るには、「一言一句、文章を考えて書いていた頃があったんだよね」などと言う時代がもう近いらしい。じゃあ、人は何に頭脳を使うのかと言えば、AIに指示や質問を出すセンスのようなものが、どうも問われようになるそうです。優れた作家ではなく、優れたプロンプターが文学賞を取ったりするのかな。

 SFの世界。フィリップ・K・ディックの「電気羊はアンドロイドの夢を見るか」=映画の「ブレードランナー」で描いた世界に、人類は着々と近付いているのですね。


〇月✕日

 そのうち、ヴァージニア・ウルフのようなアンドロイドも生まれたり?・・・いや、しないな。彼女ほどの複雑で繊細な思考は、そんなに簡単には真似できない。



 夜のデジタルスケッチで描きました。

 人物は滅多に描かないのだけれど、なぜか突然描きたくなった。弾みになる一枚が描けました。好きなアーティストシリーズ、試みたくなりました。


〇月✕日

 レッスンでデモンストレーションをするとき、喋りながら絵を描くことが多いです。集中しすぎたり、神経質にならずに描けるから。




 先月ペン画を竹ペンでドローイング。今月着彩してみたものです。題材は生徒さんが自作のカップに生けられた花の写真。あんまり素敵で、描きたい気持ちが走りました。

 有機的なペン先は、紙との摩擦が心地よいです。インクの紙への「着き」がなんとも気持ちよい。ペン先や筆先が身体の一部のように感じられたら、その「着き」を感じることが出来ます。絵を描くことは、テクニックや題材選びよりなにより先に、その「着き」を味わうことのような気がする。挿絵画家の風間完さんの本で学びました。




 〇月✕日

 アフロヘアの稲垣えみ子さんの文章が好きです。もちろんひと月の電気代200円以下、というのは、逆立ちしても真似できませんけれど。

 ウクライナとロシアの戦争だけでも辛かったのに、イスラエルとパレスチナの間の一層の暴力まで始まってしまい、やりきれない。映像を平常心で観ていられない。自分に何が出来るだろうと考えない日はない。

 稲垣さんの意見はこうだ。

「人権や法の支配という大義は溶けた できることは周囲の人と助け合いながら生きていくこと」

「蝶の一つの羽ばたきが歴史を変えていくように、ある日ある時にある場所で普通の人が生んだ一つの差別、一つの憎しみ、一つの暴力、一つの沈黙、一つの無関心が積み重なった結果が今なのだ。ならば私にできることは今この時、この場所で、一つの親切、一つの許しを積み重ねていくことしかないんじゃないか。綺麗事である。でもやはりそれしかないように思う」

 AERA dot. の稲垣さんの連載、面白いです。


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 カレンダー、今日までにご注文くださった皆さま、遅くなりましたが本日投函しました。スマートレターですので週明けになってしまいます。もう少々お待ちください。心より、ありがとうございます。

 ご注文、まだの方はメニューバーの shop のページをぜひご覧ください♪

24 Nov 2023


 〇月✕日

 2024年のミニカレンダー。メニューバーの'shop'ページにお知らせを更新いたしました。

 近年興味のある風景画を4点、それに花と小鳥、そして美味しいもの(水彩クラスのメンバー、T美さんの作られる美しいスイーツを2点、それに同じく水彩クラスのN子さんの苺の小鉢を描かせて頂いた)など、水彩作品をプリントしました。

 入稿作業は、これも水彩メンバーのH奈さんにお助けいただき、なんと幸運な私でしょう。皆さまに感謝しながら、2024年も絵を描き描き、明るく過ごしたいなと願っています。 

 今年は昨年までと紙質を変え、お値上げせずに、厚紙のフォルダーとステッカーをお付けすることができました。

 沢山のご希望のメールをお待ちしています。


〇月✕日

 水彩クラスの課題のお返事を投函するのに、往復歩くと40分弱かかるポストまで出かけました。よい運動になりました。

 途中、毎年この時期になるとツワブキの花が咲く場所があります。木陰に元気よく咲いている。ちょうど朝日を浴びて、万太郎風に言うと「輝いちゅう」! 写真に収めて帰宅。

 デジタル画を描くのは、夕飯後です。信じられないほど辛いニュースに気候変動。世界中の誰もが、不安な気持ちを抱えて日々を送っています。私もモヤモヤが消えない日がある。そんな時の大きな救いが、一日の終わりのスケッチなのです。

 で、描きました。


 描くとスカッとします。自分の中のものを、全部吐き出す感じです。

 考えたら、子どもの頃からそうです。その日一日、学校であったことを親にダーッと話す。日記に書く。そのうち絵を描くようになってからは、言葉にできない思いをそこに込める。とにかく、いつも心をまっさらな状態にしておきたいのですね。そうでないと、次の感動が内に入ってこないから。

 この単純な絵には、私が毎年愛でている路傍のツワブキに対して抱いている思いが、少しは込められたと思います。

 ホックニーを観てからデジタル画に夢中になっているわけで、ご覧の通り影響をたんまり受けています。真似じゃないか、と言われるかもしれません。ホックニー自身がそれについて語っているのをずっと前に読んだことがあります。

「描いてはいけない絵などないのだ」

 ホックニーは、若い頃からピカソに大いに影響を受けている。ピカソそっくりの絵を描いたりもしています。なぜなら描いてはいけない絵などないのだから。

 この事に関し、あるフランスの漫画家の言葉を、作家の中島京子さんが紹介していたのも印象に残っています。

「影響を受けることは芸術家の仕事です」

 こういう自由な考えが、テクニックを駆使して小手先の仕事をすることよりなにより、大切なことではないでしょうか。ことあるごとに、水彩クラスの生徒さんにこの話をしています。自分自身もそのことを忘れぬように。


〇月✕日

 もうじき12月。ということは、今年も暮れてゆくということですね。早い!

 コロナ禍のあと、以前と同じような大人数の対面レッスンをほとんどしなくなり、そのことについてご意見を頂くこともありました。

 でも自分にとって自然なことをするのが一番と、わがままを通させてもらっています。自分らしく生きていることでこそ、新たな感動や出会いが生まれ、次のステップに繋がるような気がするからです。

 でも年のおしまいくらいはお顔を合せて、一年に感謝するのもよいことですよね。12月は、東京は古巣の自由学園明日館で、沼津はプラサヴェルデで、ワークショップを開きます。

 何を作ろうかなと思い、これを選びました。タグカードです。




 ちょっと変わった紙を集めてみました。それらを重ねて重ねてパチンとまとめて、少しデラックスなカードにするんです。



 美しい紙を撫でながら、みんなで一年を無事に締めくくれますようにと、準備をしているところです。

17 Nov 2023

 


〇月✕日

 さんしんギャラリー善を、久しぶりにお訪ねしました。

 彫刻家の高須英輔さんの作品を拝見するのは初めてです。なんの予備知識もなく行ったのですが、キュレーターのFさんから、「二の倍数」と聞いた途端、思い出したのが星野道夫さんの言葉でした。

 新潮社の雑誌「Mother Natures」または「Shinra」だった。星野さんは連載の中で、今に生きる自分から遡って何世代か前の人々に思いを馳せると、目を凝らせばぼんやり顔が見えるような気がする、と書かれていた。「顔が見える」・・・。

 文章を細かく覚えているわけではありませんが、イメージが記憶に残った。

 たとえば、まず親が2人、祖父母が4人、そこまでははっきり見えます。その親が8人、その親が16人、そのまた親となると32人。その先も、ご先祖さまは倍に倍に増えてゆきます。高須さんの作品を拝見し、星野さんの書かれていたことと同じイメージを、瞬時に感じました。



 似たピースを使いながら、全く違う彫刻作品ひとつひとつの彫刻が整然と並ぶ。ひとつひとつがご先祖さま、だと想像してみる。

 少しは似たところがあるかもしれないが、皆違う顔をしている。その生活や環境も様々だっただろう。どんな人生だったんだろう。どんな所に住んでいたんだろう。何を食べていて、どんな着物を着ていたんだろう。

 自分と同じように、あれこれ泣いたり笑ったりしたに違いない。長生きした人もいれば、早く亡くなった人もいただろう。

 私が今ここにいるためには、その膨大な数の人生を生きたご先祖さまたちが必要だったわけで、自分は何か大切なものを彼らから引き継いでここにいる。彼らだけでなく、その周囲にいた人々、影響を交換した人々も含めたら・・・。

 時間をかけて作品を感じながら、何十年も前に読んだ星野さんの言葉が、一層深く胸に刻まれる、貴重な機会でした。



 ところで、前の晩にみた夢に階段が出てきた。高須さんの作品にも多くの階段たち。ここで観るものを、予知したのでしょうか? ・・・だったら益々面白い。

 イマジネーションの湧く、素晴らしい展覧会でした。企画してくださったFさんに感謝です。


〇月✕日

 寒い朝。Frosted fields。


 きまぐれな朝歩き。しかし前回と、世界が全く変わっていました。気温が急に下がったのです。




 草の表面にびっしりついた霜は、葉っぱの産毛に結晶するのでしょう。棘のようなもの、ザラメのようなもの、いろいろある。しかしどれも、奇跡のように美しい。

 Instagram にBGMをつけるのがマイブームです。この画像には、ロジャー・イーノとブライアン・イーノのコラボレーション、'Wintergreen' という曲をかぶせました。アンビエントミュージックです。

 一昨年、眼の手術で入院したときに、ベッドで彼らのアルバムをずっと聴いていたのを思い出します。


〇月✕日



 小さな庭の花壇と鉢に、球根を植えました。春咲く花の球根は、一回とことん寒い思いをさせること。そう聞いたので、11月、遅くとも12月には植えないといけないと、いつも自分に言い聞かせています。ここ数年は様々に心に余裕がなかった。今年は球根復活祭!ということで、調子に乗って奮発しました。70球購入。

 花壇の土には、石灰と油粕を混ぜ込んでおいた。気合が入っています。

 鉢にはMさんが長野で買って来てくださった、私の大好きな花、フリティラリア・メレアグリスを10球。これはぜひとも開花させたいので、普段は使わない「赤玉土」というのを初めて手に入れ、培養土に混ぜ込んでみました。

 


 この金木犀の根元のスペースには、この間まで「地獄の窯の蓋」と「らんまん」で万太郎が言っていたキランソウ、アジュガを植えていたのですが、ウドンコ病っぽくなってしまい、思い切って8割がた引き抜いた。

 残ったアジュガには、薬を散布。なにせ、このジゴクノカマノフタはここがたいそう気に入ったらしいから、きっとまたどんどん増えてくれる。次は気をつけて間引きながら、病気を防いであげればいい。

 ではこの花壇に何を?・・・そうだ、チューリップ! サカタノタネはお徳用が売り切れ(数日前にはあったのに!) かろうじてタキイ種苗で、50球の袋が少し残っていた。助かりました。

 メインはピンクのふっくらしたチューリップにしました。そこに少し変わったものを5球ずつ4種類加えた。

 春が待ち遠しいか?と言えば、冬好きの私は、まだそうでもありません。でも3月の個展を終えた後で、ここに一杯の花が咲いたら、きっと疲れが癒される。水彩レッスンで、描くこともできる。

 


 冷たい地面の中でじっと眠って、眠って、そのうちほんのわずかな春の気配を察知したら、空に向かって芽を伸ばす。

 冬の間、庭に出るたび想像しよう。すやすや眠るドワーフのような、愛らしい70人の球根くんたちがここにいることを。

 人類に残された資源は「想像力」と「創造力」だけ、なのだから。

10 Nov 2023




〇月✕日

 来年のミニカレンダーのデザインが決まりました。小さな水彩画を12枚。現在の興味の的である風景画、landscape を4点入れました。それに花と、小鳥と、美味しいもの。「花鳥風食」です。

 月末前には、Shopのページにて販売をスタートいたします。いつものようにアナログな方式ですが、どうぞよろしくお願いします。今年もデイリーワインのごとく「3 for 2」、2冊お買い上げの方には1冊プレゼントさせて頂きます。長3サイズの封筒にぴったり収まるサイズです。年末年始の小さなプレゼントにいかがでしょう?


〇月✕日

 朝歩きの小径に八重の桜が咲いていました。11月だと言うのに。植物も生き物も、みんな勘が狂ってしまいますね。

 かく言う私も、まるでホットフラッシュにも似たこの季節外れの暑さに、だるくてだるくて何もやる気が起こらない日がありました。そういうときは、許される時間を見計らい、迷わずゴロンとします。10分でも眠ることが出来たら、スキッとします。



 しかし今朝ご近所のTさんから、こんな明るい話題を聞いたのには気分が上がりました。お庭のフジバカマの花に、渡りの蝶、アサギマダラがやってきたというのです。しかも二年続けて!




 アサギマダラは東南アジアや台湾から、2500キロもの旅をしてやってくるのだとか。Tさんはスマホの画像を見せてくださった。

 彼はきっと去年の長旅の途中で、このTさんの庭のフジバカマをピンポイントで見つけて、あの小さな体で、そしてたった一人で、長い長い距離を飛んで、またちゃんとやってきたのです。

 久しぶりでお目にかかったTさんに近況を尋ねたら「最近あったことって言ったらこれくらいかな」と、この出来事を笑顔で教えてくださった。その控えめなお優しさとアサギマダラのお話に、気持ちがほんのり明るくなって、一日の心の栄養を頂きました。


〇月✕日

 美味しい頂き物。


 こんな美味しい焼き菓子があるのでしょうか?ちょっと塩気があるのがいい。噛み応え、食べ応えがあって、一切れ=小さなケーキと言ってもいいくらいの余韻を残してくれます。

 お若い友人や知人の活躍を目にすることが多くなりました。自営業ですし、ある時期までは先輩や同世代とのお付き合いがほとんどだったのです。最近、自分の子どもと言っていい世代の方々とお話していると、何事も容易くはないこの時代に、おそらくは悩みながらも方向をしっかり見定め、皆さんご自分のオールを大きく動かしながら進んでいる。様々な海原に、勇気をもって漕いでいかれている。その姿に、こちらも力をもらいます。

 この焼き菓子をくださったご夫婦も、そんなお友だちの中のお二人です。きっとこのクッキーを、研鑽を重ねて焼かれている方々も、友人たちと同世代ではないでしょうか。

 ご馳走さまでした。

 ※SHIZUKA Patisserie という、東京の人気のお店のお菓子だそうです。


〇月✕日

 小さな庭のテーブルに、カバーを縫いました。

 懸案でした。このIKEAの定番、リーズナブルなテーブルと椅子は、英国の雑誌 Country Living に取材されるようなお庭にもよく置かれていて、「あ、いっしょ!」と喜びます。ペイントされている場合もある。うちのはだいぶ年季が入ってきていい色になってきましたが、テーブルの板の隙間がお茶を飲むときなどに不安定なのが気になっていました。しっかりしたテーブルクロスが欲しかったのです。



 以前TVで観たターシャ・テューダーさんのポーチに置かれたテーブル。クロスが花柄でした。ターシャさんは毎日夕方の4時になると必ず、そこでお茶の時間を愉しまれていたそうです。そんなゆったりした時間の使い方、憧れです。それで花柄の布を、ずっと探していたのです。

 大谷翔平さんはWBCの決勝戦の前に、「今日だけは、憧れるのをやめましょう」と言いました。すごく印象的な場面でした。と言うことは、みんなずっと憧れを糧にプレイしてきたのだということ。野球の代表選手じゃなくても、私も幼い頃からずっと、その大きさは様々なれど、「憧れ」に導かれてきたような気がします。

 「人は、好きな物がいっぱいある方がいい」

 これは作家の色川武大さんの本で読んで印象に残った部分から、勝手に自分流に胸に刻んだ言葉。ひとつの対象だけに憧れを集中するのではなく、いくつもの好きを持つ。それが自分を育ててくれる。

 英国の美術大学に留学された妹さんを持つ方から、似た話を聞きました。大学の最初の授業で妹さんが何を教わったか。

 「外に出なさい」だったそうです。そして「好きな物をみつけなさい」「いくつでもみつけなさい」「それを自分がなぜ好きなのか、どこに魅かれたのか、すべて書き出しなさい」。これがその日から始まる芸術教育のプロローグ。

 みんなに同じ方向を向かせるのでもなく、重箱の隅をつつくような教え方でもなくて、個人を重視した教育。作品を作ることは、ひとりひとりが自分自身に、何度も何度も出会う旅ですね。




 こんなに小さな、路地裏のような庭なのに、数えたら小さな木が10本以上ありました。これはそのうちの3本。気に入ったスケッチが描けた!・・・ワリに、instagramでの「いいね」は少ない。そんなものですね。

 これから冬になってゆきますが、寒くても庭に出て、絵を描けたらいいな。願いも込めての、テーブルカバーです。


4 Nov 2023

 



〇月✕日

 来年のカレンダーの心配をする季節になってきました。毎年制作している、小さな短冊形のカレンダーシート。長らくお世話になっていた印刷会社のデザイナーさんがお辞めになり困っていたら、ありがたいことに新たなご縁に恵まれ、今回からHさんにお願いすることになりました。私と違ってサクサクお仕事の出来る方です。これで安心。

 絵を12枚選んで、データをお渡しする。11月後半には仕上がります。またあらためて画像とともにお知らせさせてください。


〇月✕日

 毎朝ネットで、BBC Radio 3 の 'Breakfast' というクラシックの音楽番組を聴いています。

 以前はこちらの朝の時点で最新のnewsが聴ける、向こうの夕方 'Six O'Clock News' という番組から聴いていた。ウクライナ戦争以来、世界を暗い気持ちにさせる、あまりに酷く辛いニュースばかりがトップニュース。

 それで、クラシックや現代音楽に混じって、簡略にニュースを伝えてくれる、この 'Breakfast' で目覚めることにしました。重大なニュースはちゃんと押さえてくれているので、ここでサマリーを聴いてから、必要に応じてニュース番組を聴く。それもよいと考えたのです。(福島の原発事故の際、海外のニュースをチェックすることの大切さを思い知ったので。)

 選曲がいつも素晴らしい。今朝は、マイケル・ナイマンによるサウンドトラックが話題になった、映画 'The Piano' から、’The Heart Asks Pleasure First’ がかかった。ニュージーランドの女性監督、ジェーン・カンピオンによる、日本では1993年公開の、美しい映像が心に焼き付く映画でした。

 プレゼンターの解説で、この曲のタイトルが、エミリー・ディキンソンの詩から取ったものだと初めて知りました。確かに。ナイマンの調べは、ディキンソンの世界そのもの。

 ディキンソン、それにヴァージニア・ウルフ、ボルヘスは、そう読書家でもない自分がかろうじて出会えた海外文学、謎の御三家なのですが、彼らの世界は理解しようとすると、指の間からこぼれる砂のように、または双眼鏡を逆さに見るように、すーっと自分から遠のいてしまう。理解を諦めたところ、読み手が素になったところから始まる、奇妙で純粋なリアリズムではないかと、これは勝手な独り言です。



 ナイマンのメロディを聴いていたら、ディキンソンをあらためて読み直したくなりました。


〇月✕日

 ニュージーランドには行ったことがありませんが、映画 'The Piano' での感動的に美しい風景や、'The Lord of the Rings' のロケ地のファンタジックな景色など、きっと豊かな自然に恵まれた、素晴らしいところなんだろう。

 inn the park のショップで手に取ったハンドクリームが、そのニュージーランド製でした。いかにも薬効成分ありそうな、西洋の香りがします。ハンドクリームはこの「西洋の香り」を重視して選びます。旅行気分にワープできますから。大容量で安心。パッケージを、夕飯後のデジタルスケッチで描いてみました。

〇月✕日

 ホックニーの展覧会にまた、また、また、行きました。3回目です。あと僅かで会期を終えるので、これが見納め。もう次にホックニーに会えるのは、いつか分かりません。3度目を行かない理由が見つからない。3回とも、別の用事での上京に絡ませました。どうしても絡ませたかった。

 都内に住んでいたなら、たぶんもっと行ったことでしょう。ホックニーは若い頃にロンドンで開催されたピカソ展に、9回も行ったそうです。その気持ちがよ~くわかる。




 魂を揺さぶられる展覧会に、人はその生涯で何回出合うのだろう。このホックニー展は自分にとって、間違いなくその一つでした。

 年齢を重ねた人生の先輩方が、次第に定点観測になってゆくのを見てきました。この世界を去ってゆく先輩方や昔の仲間たちを見送りながら、自分が本当に大切にしていることを見極めて、益々時間を大切に使いたいと思うようになってきました。

 画家が、自分の身辺をしつこく描き続けることも、実感を伴ってわかってくるのです。窓枠、カーテン、外の景色、テーブルの上の静物、庭、近くの風景、なんでもないものへの、過去の記憶を重ねた独自な眼差し。




 庄野潤三先生は、文学の世界でこのことをなさっていらしたのではないかと、改めて思いました。先生のお仕事をさせて頂けたこと、静物の挿絵や装画をたくさん描かせて頂いたこと、その幸運に感謝しています。



 必要なのは「詩情」だと思う。詩が表現するのは、アレやコレではない。ましてや情報ではない。一つきりの「なにか」大切なこと。

 難しい。でも面白い。続けてゆきたい。Mr. Hockney、ほんとうにありがとう。



<おまけ>

 ホックニー展の会場で、思いがけず沼津クラスのお仲間、Nさんとばったり会った。セレンディピティ! その後の約束があった神田でお蕎麦を食べる気満々だった私は、ほぼ強引にNさんを誘い、一緒に「まつや」で美味しいお昼を頂きました。



 「3回も来てくれて、ありがとさん」

 ホックニーが、ミラクルのご褒美をくれたのかもしれません。




28 Oct 2023

 


絵を描く悦び

〇月✕日

 まだサマータイムのロンドンと、8時間の時差で水彩クラスをしました。生徒さんたちに最近好評の「10分でスケッチ」'10 minutes Sketch' 。今夜は英国とのレッスンだし、私はこのヴィンテージの紅茶缶を描くことに。



 タイマーを10分にセットして、'Ready, steady, go!' 。この10分で、どなたも新しい自分を発見されるのです。

 コロナ後に始めたオンラインのレッスン。最初は手探りだったけれど、すっかり当たり前のこととなりました。それでもいまだに不思議でならない。特に、海外とのレッスンは時差があるから、ふっと我に返ると魔法みたいです。

 もちろん会った方がいいに決まっている。けれど、この新しい方法が、まったく悪いとは思えない。想像力が感受性をカバーしてくれる。綱の長ーいブランコに乗ったみたいに、勢いを持って画面と向き合う。今夜も愉しいひとときでした。


〇月✕日

 待ちに待ったスタイラスペンが届いた。iPadの高性能ペンは2万円もするのだそうですね。これはその約1/10のお値段。それでも感度がよいので、描くのがぐっと楽になりました。夕飯後、同じ紅茶缶を描いてみる。

 結構、気に入った。少しずつ感覚がわかってきたような気がします。



 この「画材」を、ホックニーがするように、ひとつのマテリアルとして使いたい。

 たとえば「水彩風に描く」とか「ペン画風に描く」とか「鉛筆画風に描く」とか「コミック風に描く」のではなく、この画材らしさを生かして描いてみたいです。便利な画材としてではなく、新しい画材として使いたい。だから難しい。そして面白い。


〇月✕日

 先日の韮山の黄金色に染まった田んぼ。お米の美味しい季節ですね。この「ご飯大好き人間」に、Sさんが今年も新米を届けてくださった。一束の稲穂も一緒に。うれしい。お正月のお飾りに使わせて頂きます。

 でもお正月まで待てずに、竹筒に飾って眺めています。



 ご飯はいつも、ストウブ鍋で炊いています。美味しいだけでなく、短時間で炊ける。便利です。



  間引き人参の葉っぱが手に入ったので、ふりかけを作る。めったに見かけないから、幸運に喜ぶ。



 美味しいので、あっと言う間に無くなりました。


〇月✕日


 相変わらず、デジタルスケッチに夢中です。庭のホトトギス。自分なりに、この画材にできることが見えてきたような気がする。

 眼のことを考えたら控えめにすべきと思うのだけど、一日の終わりにコレをやると、気分がすっきりします。

 子どもの頃、熱を出しても、絵を描くと治った。

 好きなように描く事。そうすれば、描くことは自分を解放し健康にしてくれる。でも健康のために描くわけじゃなく、愉しいから、面白いから描くだけです。


〇月✕日

 Hさんに美味しいハーブティーを頂きました。イギリス時代を思い出す山野草、ネトルがブレンドされています。

 この葉っぱは、ちょっとでも触れるとヒリヒリピリピリするような痛みを生じて、実に悩ましい草だった。田舎歩きをするときはもちろん、近くの緑地帯、ウィンブルドン・コモンを歩くときにも気をつけた。罪のない大葉のような形なので、最初は全く警戒できず、何度も泣かされた。

 しかしお茶にすれば美味しく滋養に満ち、私は未体験だが、お料理にも使えるそうです。日本の十薬、ドクダミのような存在だろうか。



 甘くてさっぱりとして、クセになりそう。少しずつカフェインを控えて行こうと思っていたところでした。ありがとう。


20 Oct 2023

 


ヒースの花


〇月✕日

 ホームセンターに、コラージュクラスの素材を探しに行くも、見つからない。少し前まではふんだんにあった木材の端材がない。なぜに?

 気分を切り替え、久し振りに花売り場をじっくり見てまわりました。自分の守護花と勝手に思っている、ヒースを見つける。6株購入し、鉢植えにした。

 ヘザーともいうが、この花を最初に知ったのは小説『嵐が丘』。正確に言えば、エミリー・ブロンテの物語を読む前に、このエキセントリックなストーリーを曲にしたケイト・ブッシュの 'Wuthering Heights' で知ったのだった。ミュージックビデオ全盛の時代。リンゼイ・ケンプに弟子入りしていたケイト・ブッシュの、パントマイムのようなダンスが印象深い。

 ロンドンに暮らし始めた頃は、慣れるまで友人の家に間借りをしていました。友人は花が好きで、秋になるとヘザーの鉢植えを窓の外に飾っていた。白い窓枠と灰色の空に、ピンクの小花がよく映えた。花の無い季節、街のショウウィンドウなどでもよく見かけた。

 可憐なベル型の、日本で言うエリカの仲間。しかしこの「カルーナ / ガーデン・ガールズ」と言う種はより小粒です。それでも、懐かしい思いでいっぱいになる。

 もとは荒れ地に咲くツツジ科の花で、可憐な姿と裏腹に、地面に強く根を張って、ちょっとやそっとでは引き抜けない。秋には野の一面にこのピンクの花が絨毯のように咲く景色がイギリスの風物だけれど、5年も居ながら、残念なことに私はそれを観ていない。その代わりに、アイルランドを旅した時、列車の窓からそこら中にポッ、ポッとかたまって咲くヘザーを見た。荒々しい黒い大地だった。そこにこのピンクの色彩が点在する景色が目に焼き付いています。

「彼(エリック・サティ)は僕らに教えた。真に偉大なものは偉大らしい様子を持ち得ないこと、真に新しいものは新しい様子を持ち得ないこと、真に淡白なものは淡白らしい様子を持ち得ないということを」

   『我が魂の告白』ジャン・コクトー 堀口大学 訳 より



〇月✕日

 友人が親友と一緒に、東京から遊びに来た。

 柿田川公園(国の天然記念物)に行きたいとのリクエスト。地元民はいつでも行けると思って滅多に行かないから、観光気分で久しぶりに愉しみました。澄み切った湧水は、磨きぬいたガラスのよう。富士山の雪解け水が長い年月、地下の溶岩の中をくぐって、三島市やこの清水町の柿田川に湧き出る。



 この写真じゃ、魅力が充分お伝え出来てない。ザンネン。↑は通称「ブルーホール」と言うのだそうです。時間によって、輝きが変化します。

 この地にかつてあった、紡績工場の取水口だったこの穴は、高さ3.5m、直径5m。柿田川公園の人気スポットです。三島もそうですが、私の子どもだった頃は工場排水がひどかった。住民の運動と努力で、今はどちらの街も水の美しさを観ようと、観光客、はとバスまで訪れるほどになった。

 駐車場近くに湧水が汲める場所があったので、次は容器を持ってゆこう。


〇月✕日

 ホックニーのiPad作品に感化されて、私のタブレットはアンドロイドなのですが、「もどき」を愉しんでいます。Sketchbook というアプリケーションを導入してみました。タッチペンもちゃちな物なので、思うように描けない。だがしかし、それもまた面白い。

 たとえば、夜寝る前などに水彩を描く、と言う気にはなかなかなれない。でもこれなら出来ます。

 ホックニーは夜明け、暗い寝室の窓から見える朝焼けを描くという。暗い部屋で絵を描く。それができるのが、この新しい画材のすごいところだと、ホックニーの言葉を読むまで全く気づかなかった。やっぱりホックニーってすごい。



 伊豆の韮山にあるギャラリーnoirさんで、友人たちが参加するソーイングの展覧会が開催され、観に行きました。展覧会も愉しかったが、韮山の平野は、今一面の黄金色。見渡す限り稲刈りを待つ稲穂の波、また波。圧倒される。きっとDNAに刷り込まれている。私たちの原風景と言ってもよいこの景色を、帰宅後夢中で描いてみた。

 半年前にはレンゲ畑にミツバチが飛んでいた。水が張られ、田植えをし、梅雨や厳しい夏を経て、豪雨や台風にも耐えて、こうして私たちの身体を作るお米が今ピカピカ光っている。人が長い年月をかけて築いてきた、自然と食のリズム。歴史もなにもかも、ぜんぶひっくるめて、美しいなぁと思う。

 世界中、どんな民族も、今に至るまで必死に命をつないできた。フランスの社会人類学者で思想家、レヴィ・ストロースが言っていた。

「人間は、いたる所であまりちがいませんでした。人間の愛や憎しみは、どこでも同じようなものです。たとえ人類の歴史から10世紀分を抹消してしまったとしても、人間そのものの理解には、さしたる支障にはならないでしょう。しかしとりかえしのつかない形で失われてしまうもの。それは人間がその間につくり出したであろう、創造物です」

(1993年の覚え書きノートより)

13 Oct 2023

 

ホックニーと読書

〇月✕日

 先月二回も詣でた、東京都現代美術館で開催中のDavid Hockney展は本当によかった。11月5日までの会期中、行けるものならまた行きたいぐらい。

 アートを志して以来、ホックニーはずっと私のヒーローです。画家が86歳になった今もそれは変わらない。60年以上この世界を引っ張ってきたこの巨人は、自分の周囲に目を凝らし、身辺をスケッチし、どこへ出かけるでもなく、「絵を描いていると30代の気分だ」と言いながら、一日中絵を描いて幸せを感じている。

 最近は展覧会のカタログをあまり買わないようにしているのだけれど、しかし、全長90メートルにも及ぶノルマンディーの四季が描かれた大作が網羅されたこの一冊には抵抗できなかった。

 それともう一冊、ミュージアムショップで購入した本が面白くてたまらない。美術評論家のマーティン・ゲイフォードとの269ページにも及ぶ対談集。ゲイフォードとの対話は、You Tubeでも観られる。

 にしても、You Tubeでこんな風に好きな芸術家の話を、まるで最前列でかぶりつくように聴ける時代が来るなんて、想像もしなかった。文字のテロップを出せるものも多い。AIがやっているのか間違いも多いけど、無いよりはずっとましだ。

 そんなわけで、夜寝る前にゲイフォードとの対談集『春はまた巡る』をチビチビ読むのが至福です。(ホックニーは毎晩9時に寝る前に、3時間も読書するらしい)

 それからBBC Sounds (BBC Radio)で検索したら、ホックニーのインタビュー番組が見つかった。いかにも愉快そうに笑いながら話すホックニーの声を、一回じゃ聴き取れないのでくり返し聴いている。愛煙家のホックニーもビタミンL党のようで、笑うことは肺にもいいんだよとかなんとか言いながら、ハッハッハと笑っている。


私のホックニー図書館

〇月✕日

 仕事部屋のことをアトリエとは言わず、イギリス人はスタジオと言うが、私のこの部屋はスタジオ兼ワークルーム。生徒さんたちが見える日はワークルームになる。

 「ワークルーム」という呼び方は、イギリスの友人で刺繍作家、デザイナーのキャロライン・ズーブさんに倣ってみた。キャロラインのワークルームにみんなでおじゃましたのはコロナ前。奥にキッチンがあり、ワークルームが2部屋あった。落ち着いた中にもアーティストの自由な空気が感じられ、創作意欲の湧く素敵な空間だった。

 私のスタジオには長机がふたつある。一つの方は壁に寄せていて、下に大きなかごを三つ、物入れに使っている。書類が主なので重たい。かがんで引っ張り出すのに力がいる。また腰を痛めるのは困る。

 先日MUJIで偶然、小ぶりの台車を見つけた。カゴの下に置いたら大正解。大きなカゴ抽斗になりました。

 ついでに書類の整理もした。一気にシュレッダーを掛けるとなると気が重くなる。仕事と仕事の合間の気分転換にやることにした。単調な退屈仕事を価値あるものにリユースするべく、別室にシュレッダーコーナーを設けた。


〇月✕日

 朝、白い仔猫のお腹のような雲が、ベイビーブルーの空に広がる。



 と喜んだのもつかの間。雨が降り出して、寒い寒い。カーディガンを重ね着し、その上にフリースを羽織ってパソコンに向い、水彩レッスンの今年の課題を10月からまとめてゆくために、2024年のカレンダー、タマ部分を作る作業をした。

 間違いがあってはいけないので、慎重に作業する。月曜始まりを使う方と、日曜始まりを使う方がおられるので、両方作った。

 ついでに自分用のまかないカレンダー(レッスンの予定を書き込みやすくデザインしたホームプリント)のタマ部分もやっつけてひと安心する。


〇月✕日

 友人のKさんが、美味しいお土産を持って来てくれた。雅心苑という和菓子屋さんの名物、「雅心だんご」です。うれしい! 一見、おおぶりのみたらし団子なんだけど、中にたっぷりこし餡が詰まっているのです。と聞くとくどいようですが、そんなことはない。ただ美味しい。おもたせで恐縮です。一緒に頂く。ごちそうさま!



〇月✕日

 昨年のコラージュクラスの課題である、Altered Book (Junk Journal) を、今年ぜひやりたいと仰る生徒さんがお三人新たに参加くださって、通常のレッスンとは別に行っています。お二人はオンライン、お一人はワークルーム。オンラインのお二人のキットをまとめ、発送した。先日手芸店で見つけた、インドの刺繍リボンが素晴らしく、素材に加えた。今月は表紙を制作し、一応の完成。でもいつまで続けてもいい。だから面白い。

 アランの『幸福論』に待歯石と言う言葉が出て来る。

「どんな仕事においても、待歯石のようなものがその仕事をつづけるためのじゅうぶんな根拠となる。それゆえ、前日の仕事のなかに自分自身の意志の刻印を認める人は幸福である」

「刺繍ははじめの幾針かは、あまり楽しくない。しかし進むにつれて、加速度的な力でわたしたちの欲望に働きかける」

「なぜなら、はじめはなんの期待もなしにはじめなければならず、期待は増大や進歩から生ずるものだからである。ほんとうの計画は仕事の上にしか成長しない」

 待歯石というのは、石工の用語で、ひとつの壁の突端から、隣に立てようとしている壁をつなぐため、つき出した石のことを言うそうです。

 久し振りに開いたら、ページから、金色の言葉がこぼれ出る。


〇月✕日

  表紙からいい。教えてもらった少し前に、クレマチスの丘にあったショップで、アーティストの沖潤子さんの作品集『PUNK』を購入していた。その沖さんの作品が使われている。それもまたシンクロニシティでうれしかった。


 悲しいことは誰にだって起こる。そんなときにはきっとこの本が救いになる。共感いただけそうな方に、時々おすすめしている。本日レッスンだった人生の先輩、読書家のMさんに、私も以前教えて頂いた。悲しみに、静かにそっと寄り添ってくれる本です。

 連載エッセイの校正が届く。言いたいことをしっかり届けられていない部分があったので、修正してもらうようお願いする。ほんの一言の違いで、未知の方角から風が一陣吹くように、全体が変わる。

 今日は本当に気持ちの良い穏やかな秋の空気だったので、竹炭を日に干した。しばらくしてひっくり返しに行ったら、ジョン・ケージの音楽のような、ランダムで不思議な音が聞こえる。ピチッ、ピチッ・・・。どの子も微かな音を立てている。乾いてるよ、と教えてくれる。脱臭能力がフッカツし、半永久的に再生できるのだそうです。無口でサステイナブルで働き者の竹炭に感動する。