23 Feb 2017



Kさんの木の葉

 先日、幸運にも大好きな昇太さんの落語を聴くことができた。

 実はこの日は昼間に、お世話になったKさんをしのぶ会があり、夜に落語で大笑いだなんて不謹慎なんじゃないかと、行くのはやめようと思っていたのです。しかし諦めの悪いヤツはこういう時、「どうせ完売だしぃ・・・」とかつぶやきながら、寸前になって検索してみたりする。それは私です。そしたら、なんと、リセールチケットが出ているではないですか。夜の部2枚。 

 Kさんは詩を愛し、ことばを愛し、ことばに笑うことが大好きだった。お身体の具合がだいぶ悪くなってからも、ガッツ石松の天然話や、競走馬の妙なネーミングについてなど、面白可笑しく話してくださった。「だって『モチ』なんていうのや、『センギョウシュフ』なんていう馬がいるのよ」と笑う、鈴のような声が今も聞こえる。

 同じ声で、「お父さんと一緒に行ってきたら」って、雲の上から黄金の木の葉をそっと二枚、はらはらと落としてくれたに違いないって、その時思った。

 父も「笑点」のおかげか、それともKさんの魔法なのか、いつもの短い返事、「いい」ではなかった。それで急きょ、生まれて初めて父と落語に行くことになりました。



 タイムリーにも講演の前日の夜、今や超・大人気の昇太さんは、NHKの歴史の番組に出演していた。夕飯の支度をしながら見るともなしに目に入ったその番組で、冗談だけでなく、なんだか大人らしいいいことも仰る昇太さん。晩年まで絵筆と格闘し切った、葛飾北斎の紹介をしていた時だったと思う。

 「自分がやってる落語のような芸事は、数字で判断できるものじゃなく、もうこれぐらいでいいという地点がない。ちょっとうまくいったなと思ったら、次はもっとよいものができないと満足がいかない。同業の噺家さんたちには、『面白い人』だなあと思う方が多い。そうじゃないと、もっといいものを作ろう、もっといいものを・・・なんていう生き方は、とてもじゃないけどしんどくてやってられないって、最近わかったんです。」

 正確じゃないけどこんな感じの内容を、あの、ますます春風のような笑顔でフワッと。

 (おそらくNHKだからカットしたのかも知れないと思う。「面白い人」ということばに含まれる意味を、私は私なりに解釈してナットクしている。)

 


 さて舞台です。まず、競演の柳家三三さんとともに、普段着の恰好で、沼津市民文化センター、小ホールのステージに登場した昇太さん。相変わらずおしゃれでした。ヴィンテージっぽいトレーナーにジーンズ。グレーの皮のスニーカーまで。

 しばらく二人で漫談みたいなことをやってくれたのがよかった。紅白の審査員をやったときのことや、大河ドラマの撮影について、面白おかしくぶっちゃけてくださったのも、隣の席に座る老父の心をつかみ、免疫力を高めてもらえた。サラリーマンの飲み会がテーマの創作落語も、面白かった。

 昼間のKさんをしのぶ会は、心にしみるよい会でした。Kさんを本当に大好きな人たちが集まって、和やかにそれぞれの思い出の話を披露し合った。Kさんの果てしない優しさが、どれだけ人を勇気づけ元気にし、どれだけみんながKさんから影響を受けて来たか、力をもらってきたかが、あらためてわかった。私は一人じゃないと思った。

 どんな人に出会えたかで、人の歩く道は様々にと、いつ頃からか思う。いつになっても頼りない私だけれど、Kさんから教えてもらった大事なことが、これから一層大事になってゆくのはわかっている。昇太さんがTVで言っていたのもそういうことかなと思って、ちょっとじんとする長い一日でした。 

8 Feb 2017



日々

 お正月からずっと咲き続けてくれた梅の花。そろそろと散りだした。

 もう10年以上前に、ホームセンターで買った盆栽風の一鉢。大きくなって地面に植えていた時期もある。近所の状況が変わり日陰になり、無残にもカイガラムシにやられ、ホラーのような目に遭ったこともありました。

 剪定して大きな鉢に戻したら、今年はよく咲いた。冬の玄関を和ませてくれた。




 こちらはよく歩く道にある、立派な邸宅。裏口の扉に、いつ通っても必ず、季節の花が生けてある。

 塀から庭の様子は伺えない。四季を通して毎日何かの花が咲き、実がついているのでしょう。

 見ず知らずの私みたいな者を、いつも「そっ」と明るい気持ちにさせてくれる。この家の花人を、心から尊敬しています。

5 Feb 2017



花と団子の話

 今年も去年と同じように、時間をキチッと守って、けなげに咲いてくれました。金木犀の根元のスノウドロップたち。

 私はとにかく、いい歳になってからイギリスに行くまで、植物について全くの無知。自生地はイギリスというこの可憐な花のことも、あちらで初めて知りました。今朝フォローし合っているイギリス人画家の Deborah さんのインスタグラムに、あるステンドグラスの写真がテニソンの詩の一部とともにポストされていた。清らかに優しく、でもきっぱりと凛々しく、教会の窓に描かれていたのが、この地味なスノウドロップでした。

   The Snowdrop

   Many, many welcomes,
   February fair-maid,
   Ever as of old time,
   Solitary firstling,
   Coming in the cold time,
   Prophet of the gay time,
   Prophet of the May time,
   prophet of the roses,
   Many, many welcomes
   February fair-maid!

          Lord Alphred Tennyson (1809-1892)


 イギリスの冬は厳しいですから、スノウドロップが咲くのを発見した時の喜びは、この「Prophet=預言者」の言葉にぎっしり詰まって表れている通り。

 天気予報では、雨は降りますが温か・・・じゃなかったでしょうか。今日は駿河の国も寒い一日でした。でもテニソンの言う通り、よし、冬ももう一息。頑張ろう!って思う。 




  これは私の好物、中近東料理のフムスです。これを手製のパンに塗って食べるのは、一番好きな朝ごはんのひとつで、今回はレモンとお塩の代わりに、そーだ、アレがあった、と、塩レモンを使ってみた。いつにも増して、コクのあるいい味に仕上がった(と自画自賛)。タヒニと呼ばれるゴマのペーストは、アマゾンで買うことができる。それを知るまで、日本の胡麻ペーストで作っていた。出来栄えはほとんど変わらないけれど、胡麻ペーストより輸入品のタヒニのほうが経済的。ひよこ豆も徳用サイズがやはりアマゾンで買えるので、利用しています。

 塩レモンもまた、中近東がルーツの発酵調味料ですね。これまた私に無くてはならない「レモン胡椒」を作る際、皮をすりおろすと皮なしレモンが頼りなく残りますけど、それが役立ちます。本式には皮ごと漬け込むんだけど、ま、いっか。写真左に写る瓶がそれです。細長い空きビンが重宝します。

 (余談ですが、塩レモンのトロッとした液体の方をほんのちょっとグラスに入れて、ガス入りのミネラルウォーターで割るノンアルコールの一杯は、なかなかイケます。)




 最近始まった新しい習慣。それはお弁当作りです。今までも、外出の時は家族に作って置いたりしていたけれど、この間からはどこへ行くわけじゃないのに、自分用にも作るようになった。中井貴一さんの弾んだ声が聞こえてきそう。「サラメシ!」です。お昼の時間に仕事や考え事が中断せずに済んで、わずかなりとも能率がよくなったような気がします。

 年々集中力や仕事の効率が悪くなっているので、工夫で何とか乗り越えようと、こう見えて必死です。

 スーパーで冷凍食品の進化に目を見張りながら、前日のおかずの残りも生かします。お弁当のことを考えながら、夕飯のメニューを組み立てようかと思うほど。この日のふりかけは、茅乃舎のお出しの出しがらで作る、自家製・錦松梅。自家製だから、好きな松の実を多めに。

 買ったはいいけどあまり出番の無いスペインの耐熱容器、カスエラ(cazuela)に、おままごとみたいに盛り付けるのも愉しいです。これはレンジのみならず直火もOK。シチューやカレーもいいな~と夢が膨らむ・・・くらいだから、三日坊主で終わることは無いと思うのですが。どうだろ。

 「exhibit」というページを新たに作り、メニューバーから飛べるようにいたしました。東京のグループ展のこと、そして昨年の展のことなども遅ればせながら記しましたので、よかったらご覧ください。


2 Feb 2017



HAC の G展

 Hiro's Art Class の東京メンバーによるグループ展が近づいてまいりました。案内状もご覧の通り仕上がり、さて写真を、とトライしているのですが、このバックのピンク色のせいなのか、冬の弱くビミョウな自然光のせいなのか、いえいえ、もちろん私のカメラ技術の無さからです。なかなかきれいに撮れません。でもまあ、こんな風。ちょっとガーリー過ぎますか? 万年ガールズの集まりとも言える我がクラス。どうか大目に見てください。

 参加メンバーは、今回21名。葉書き上のおひとりのスペースは、まさにサムネイル大。そこにそれぞれのエッセンスをひとしずく。ひとつひとつの作品の香りが立ち昇りますようにと願いながら、バランスを見て、まるでパズルを解くようにデザインします。

 観に来てくださるお客さまの多くが仰るのは、「皆さん、先生と同じ作品を作るのだと思っていました」。バリエーション豊かな作品に驚かれます。レッスンで知ってほしいのは、「自分の」作品を作る面白さ。発表の機会のたびに、みなさんそれぞれ集中されて、自分にしかできない何かを見つけてくださる。それが何よりうれしいのです。

 もちろん私もアドバイスしたり、素材を提供したり、フレーフレー!と応援団長をいたします。それにしても、自分の作品をゼロから作るのは、なかなか大変なことです。でも制作しながら、今まで思いもよらなかった純粋な発見がなにかしらあるはずで、それが物を作ることの一番大事なことじゃないかといつも思います。

 会期は、3月5日(日)から11日(土)。銀座4丁目からすぐのACギャラリーです。追って詳細をお伝えいたしますね。少々お待ちください。