5 Oct 2026

 



大中寺とバラカンさん

 昨年に続き、市内のお寺、大中寺の副住職、下山光順さんが企画してくださった、ピーター・バラカンさんによる出前DJ。告知の日からずっと愉しみにしていました。

 「抗議する音楽」'Rebel Music' 'Protest Songs' というお題も昨年と同じく、副住職さまからのご提案だったそう。まず英語の 'rebel' という言葉について話された。日本語訳だと「反逆者、反乱者、反抗する、逆らう」など否定的なイメージで表される。しかし理不尽なことに対する抗議も 'rebel'。肯定的な意味を持つものでもあるのだと、ピーターさんは仰る。

 物心ついた頃から音楽が好きだった。ギターが趣味だった父の影響です。さまざまな音楽に感動してゆくうちに、いつの間にかジャンルで仕分ける必要を感じなくなった。視野が広く、信じる心を持ったピーターさんのラジオ番組は、聴いていて学びが多い。

 今年Eテレで放送された「未来へのプレイリスト」という番組も、貴重なフィルムや、ピーターさんとゲストとの対話が面白かった。シリーズ2も、是非やってほしいです。

 今年も社会の理不尽へ抗議する音楽を、時にユーモアも交えながら、静かに惜しげなく語り紹介してくださった。聴きながら、音楽好きにとって音楽は生きることに直結しているとつくづく感じました。広い本堂に満席のお客様たちも、皆そうだったんじゃないかと思う。




 イギリスに暮らしていた頃、あれ?と不思議に思ったことがあった。ラジオから流れるポップミュージックの半分以上、7割くらい? アメリカの音楽なのです。アメリカのロックやポップやブルーズやジャズが、なぜこんなに愛され、いくら同じ英語圏とはいえ、他国で聴き継がれ、影響を与え続けているのか?

 まさに理不尽なニュースばかりの最近、思うことがあります。アメリカは豊かな夢の国と受け止められがちだけれど、長い歴史の中、苦しむ民衆を抱え続けているという事実。侵略、差別、貧困、格差、暴力、そして戦争・・・。 'Rebel Music'。人が巨大な力の為す苦しみから、簡単には逃れられずとも、希望を失わないため、精神をキープするために、歴史の中で音楽が大きな大きな救いになっていることに気付かされる。音楽が持つ力。そのビート、そのメロディ、その詩情、その魂。アメリカに生きる個人が生み出す様々な音楽は、真に「善きこと」への共感や気付きを、世界中の庶民に与えてくれている。

 4月に予定している沼津での作品展。久々の地元での個展に向けての、大きな励ましを貰った思いです。






30 Sept 2026

 



2027 CALENDAR

 今年もカレンダーの季節になりました。いつもの短冊形のミニカレンダーと、昨年から制作している、書き込みのできるA4カレンダーの2種類を販売いたします。

 ミニの方は、Hiro's Art Class で制作してきた膨大な数のハンドクラフトやコラージュから12枚の写真を選びました。イギリス仕込みのシンプルなハンドクラフト。この20年、生活に色どりを加える作品を次々と制作してまいりました。今回も一言シートをお付けしています。小さな手作りのアイデアソースとして、お役に立てば幸いです。

 一方縦型A4サイズの方は、私が長年愛用してきた「まかない」カレンダーのタマに、今年も季節にちなんだ小さな水彩をあしらっています。縦長のマス目に、時間ごとの予定を書き込めるので重宝です。

 多くの方々と同じように、私もスマートフォンに予定を打ちこんでいた時期がありましたが、年々小さな字の操作が苦手なのと、コロナ禍を経て、予定表はいつの間にかこのカレンダー一択の生活に戻っています。




 こんな風に、MUJIのペーパーホルダーに挟んで。クリップで留めてもよいですね。

 shop のページに詳細を更新しました。

 なにもかも値上げの昨今、郵便の送料も上がってしまいました。そこでささやかな抵抗です。どちらも「お値下げ」いたしました。穏やかな2027年を祈りつつ、お役に立てたなら幸せです。よろしくお願いします。

27 Sept 2026

 



愉しみな朝ドラ

 「風薫る」。いい最終回でした。ボロボロに泣きました。「優しいんだよ」。ラジオできたろうさんが、可笑しな話の合間にしみじみと繰り返し語っていた通り、命をみつめ励ます人の優しさを、そっと描いた朝ドラ。毎日欠かさず観ていました。

 そして明日からは「ブラッサム」。作家の宇野千代がモデルです。

 宇野千代のエッセイに、私は今までどんなに励まされてきたことでしょう。30代半ばでイギリスに渡ろうと決心した頃、この『行動することが生きることである』と『思いのままに生きて』を熱読していました。

 もちろんイギリスにも持って行った。壁にぶち当たる度、開いては読み返していたと思う。赤いラインがいっぱい引いてあります。




 私の文章をよく読んでくれていた友人から、「河田さんは『楽しい』と書かないのですね。なぜ『愉しい』なのですか?」と尋ねられたことがある。それは、宇野千代さんのエッセイから学んだこと。千代さんは必ず「愉しい」と書く。理由はわからない。でもその活字を見たとき、自分にもピンと来るものがあった。




 「楽」という字をあまり好きじゃない自分に気づいたのです。

 本当の「たのしさ」は「楽ちん」とは違う。イラストレーターとして独立し、山あり谷ありの7年ほどが経って、苦も楽も乗り越えた丘の向こうにこそ、ほんとうの「愉しさ」があるのではないか。なんとなくそんな景色が浮かんできた頃だった。

 伝統を重んじながらも自由な表現を尊ぶロンドンに暮らし、仕事をし、それが一層実感を持って迫ってきた。感受性の扉をひとつ、またひとつと開くとき、千代さんの言葉が背中を押して・・・、いや、手招きしてくれた。




 これは先日、貴重な青空のもと、サイクリングした桜並木。すっかり葉を落として、タイヤが踏むと乾いた音がする。明日から、この木に 'blossom' が満開になる季節までドラマは続く。千代さんの波乱万丈の一生を、朝ドラはどんなふうに描くのでしょう。すごく愉しみです。

12 Sept 2026

 



ルーシー・リー

 この本は、1987年、私が初めてロンドンにひと月滞在した時に求めた、ルーシー・リーの作品集です。スローン・スクエア駅近くの書店に、平積みになっていました。




 今でも忘れられないその光景。一目でとりこになった表紙です。本体は茶色の布張りに金の箔押し。今ではめったに見ることのないような豪華な本。これほどまでに美しい陶器の数々を生んだ作者への興味は、40年近く経った今もまったく変わりません。

 ロンドン在住時には、V&A ミュージアムのリーの作品ケースの前に、数えきれないほど「巡礼」しました。また大小の展覧会が幾度となく開催されたので、そのたび足を運びました。




 
 ↑はバービカン・アートギャラリーで求めた一冊。他界された数年後にオークションが開かれた時のカタログです。人生の後悔は数知れませんが、このオークションに参加しなかった馬鹿な自分に、未来の自分は今もガッカリです。






 このカタログの中には、1989年に東京の草月会館で開かれた、日本では初の作品展 'Issey Miyake meets Lucie Rie' の様子が紹介されています。安藤忠雄さんがデザインした展示は 'Table of Water'。水が張られた台の上に、リーの作品が静かに置かれています。もちろん行きました。懐かしく思い出します。

 このカタログ本によれば、一生さんは1988年に、関わりのあったイギリス人のファッションデザイナー Maureen Doherty の紹介で初めてリーに会ったとあります。いつだったか別の記事で、そもそも一生さんがリーの存在を知ったのは、ロンドンで出合ったある本によってだと知り、その本とは時期的に先ほど紹介したあの豪華な作品集だったに違いない。そう思います。

 草月会館のギャラリーに置かれた、巨大な水盤に並ぶリーの陶器。この展示法は、のちに東京ミッドタウンの 「21_21 DESIGHN SIGHT」での展覧会でも体験できました。






 マクラが長くなりましたが、やっと酷暑と大雨が落ち着いたので、一昨日、庭園美術館にリーの作品展を観に行ってきました。アール・デコ様式の旧朝香宮邸。その豪華なインテリアの中に、作品がどのように展示されているのかも興味深かった。





 たとえば、このような感じ。脳内でケースを削除しましょう。よく似合います。




 鏡の国のリー。




 浴室のリー。なんだかシュール。




 別館でのシンプルな展示は、作品に集中できてまた素晴らしかった。

 邸内、館内を巡りながら思ったのは、なぜリーはここまで繊細な造形を追求したのだろうということでした。日用使いはとてもできません。もし私が裕福で作品をいくつも保有していたとしても、何かを装う気持ちにはなれないような気がするのです。なのに、人の心を虜にする器・・・。

 彫刻。リーは若い頃、彫刻家を目指した時期もあったそうです。

 最近よく思うのはデフォルメということです。自分が何かに感じた感覚をデフォルメする。デフォルメしないと、自らの感覚でさえ、自分自身の深いところに届かない。時間とともに溶けて消えてしまう。形のデフォルメだけではありません。色彩のデフォルメについても考えます。レッスンで生徒さんたちによく、「見えた通りを描かないで、感じた何かを描いてください」と伝えますが、伝えながら自分にも言い聞かせているのです。

 リーへのオマージュ作品を課題にしたレッスンも、過去に2回行なった。クラスのメンバーも何人か、この展覧会を巡礼したようです。

 イギリス暮らしを始めた頃、リーのスタジオ兼住まいのあるアルビオン・ミューズを、ひとり訪ねたことがあります。もちろん会いたいなどとは恐れ多すぎます。ただ小路の入り口に立つだけでいい。そう思って、英会話学校の帰りに A to Z の地図を頼りに・・・。ハイドパークのすぐ近くの静かな住宅街でした。すでに床に伏されていた頃です。ご近所の方から、毎日ナースが来ていると聞きました。しかし蔦に覆われた壁の向こう、まだその時はリーがおられたのです。

 その後、一時帰国をしてからロンドンに戻ると、リーは93歳の生涯を終えていました。

 リーの逸話で好きな話があります。BBCラジオでの特集番組で、親しいお付き合いのあった友人が語っていました。まずアルビオン・ミューズの家は驚くほどこじんまりしていた。リー自身も小柄で、しかしとても芯の強い人だった。ある日、女優のジュリー・アンドリュースを連れてリーを訪問したと言います。アンドリュースはリーの大ファンだったのです。作品について歓談し、さて帰る段になったとき、見送りながらリーは彼女にこう訊いたそうです。「ところであなたのお仕事は?」

 芸術に一生を捧げた人にしか生み出せない真の輝きを、今回も多くの訪問者に優しくキラキラとまぶしてくれましたね。リーさん、ありがとうございます。



5 Sept 2026

 


仕事の合間に

 天候がこの通りで、受け身でいると気分が落ちる。次の朝ドラのモデル、宇野千代さんは、晩年の家での時間のほとんどを台所で過ごしたそうですが、気持ち、わかります。愛読書『私の長生き料理』には「美味しい」ではなく「旨い」と表現されるお料理がいっぱい。「旨い」。うん、いい言葉です。




 ↑は生徒さんに教わった、ピーマンの丸ごと焼きびたし。簡単で旨い!しかしうちのひねくれピーマンたち、こうして料理すると可愛らしい。むかし猫3匹と暮らしていた頃、こんな風によくかたまって寝ていたのを懐かしく思い出す。和太鼓の巴紋みたいでもある。「魔除けピーマン」と名付ける。




 ストウブの一合炊き炊飯鍋。でも一度にお茶碗3杯分は欲しいから、1.2合で炊いています。わずかに吹きこぼれますが、魯山人もそれが大事とたしかドラマで言っていた。上手に炊けます。冷凍のグリーンピースでお豆のご飯の炊き立てが食べられる。今度は冷凍コーンでとうもろこしご飯も、やってみよう。秋になったら、これまた冷凍してジップロックに保存してる茸のご飯も。その日の気分で具材を決めて、炊き立て炊き込みご飯が頂けるのはウレシタノシイです。




 そしてこれは今日の傑作。イギリス時代にスーパーで買って食べていたパン、クランペットです。最近よくヨーグルトを濾した後に残るホエー、それにホットケーキミックスを加えてパンケーキを焼いていたのですが、もっちりした味にこのクランペットを思い出した。検索したら、驚くほど簡単。捏ねずに作れるし、フライパンで焼ける。

 ステンレスのリング「セルクル」が必要とあるけれど、直径9センチのクッキー型で代用。失敗せずに焼くことができました。

 イギリスで食べたものとそっくり同じとは、もちろんゆかない。でも見てください、この表面のボコボコ。ここにメープルシロップがうまく絡まってくれます。好きとなると何べんも繰り返し作ってしまう自分。これもどのくらいだろう。飽きずに食すことになりそうです。

31 Aug 2026

 



コラージュの花箱

 2018年にご依頼いただいてから8年、日本ヴォーグ社の押し花雑誌「私の花生活」に、作品とエッセイを掲載いただいて参りました。残念ながらこの秋号で休刊。

 最終回のタイトル「九月の黒板」は、若い日々に多くの影響を与えてくださった、詩人の故・芹澤加寿子さんの大好きな詩のタイトルからお借りしました。

 石板は、沼津クラスのお仲間たちに誘ってもらった骨董市でゲット。19世紀にフランスの子供たちが使っていたものと思われます。傷み具合が魅力です。

 ヴィンテージの紙類は、ロンドンの友人で、アンティークディーラーのキャリーが送ってくれたブリッカブラックのお宝より。

 押し花作家の稲葉桂子さんと、沼津クラスの秋山正子さんが分けてくださった、見事に美しく押された押し花から念入りに選び、注意深く配して完成。

 多くの友人たちの愛と日々が詰まったコラージュで締めくくることができ、幸せです。




 この最終号には、私の仕事部屋の様子も掲載されています。編集長の青木さん、カメラマンの渡辺さん、編集者の高澤さん、デザイナーの寺山さん、ライターの菅原さん、取材に東京から来てくださった。私にとって、有り難き記念のページとなりました。
 



 加えて、新しいご依頼も。ヴォーグ学園から単発でのオンライン講座のお話を頂き、実は4月から準備を重ねておりました。

 普段このワークルームからプライベートに行っているオンラインレッスンとは違って、日本ヴォーグ社のスタジオから「Zoom ウェビナー」で2時間にわたりお送りします。傍らでヴォーグ学園の方がアシストしてくださったり、カメラの切り替えも自在にアレンジしていただける。初めての経験に、今からワクワクしています。

 直接の会話はできませんが、質問はライブでお受けできますし、見逃し配信も可能だそうです。すでにヴォーグ学園のウェブサイトに募集のお知らせが出ていますから、ご興味のある方、お早めにお申し込みいただけましたらうれしいです。

 ヴォーグ学園 WEB サイトにはこちらから




 キットには、私のお気に入りのフレンチアンティークペーパーを組み合わせて印刷した、レプリカをお入れします。押し花は含まれませんので、自身でご準備いただきますが、希望者には押し花づくりのキットをお付けできると伺っています。

 押し花やドライフラワーは、お花のヴィンテージ。連載を始めて間もなく気付いたことです。古いものに惹かれる自分のコラージュの世界に、花たちはまたひとつ、扉を開いてくれました。

 「コラージュの花箱」の連載に、毎回心をこめて制作した作品と文章は、来年4月の個展を目標に、ブックにまとめたいと考えています。個展は沼津市の Gallery OKUWA で開催します。また近付いたら、お伝えしますね。

 その前に10月20日から11月1日の自由学園明日館、JMショップギャラリー展にも、掲載コラージュ作品をいくつか展示します。こちらもご覧いただけましたらうれしいです。

 なんだか情報量多すぎ!自分でもよくわからなくなりそうですが、ポカの無いように気を付けて、ゆっくりじっくり進んでまいります。様々な機会に、作品を通じて皆さんと共感できますように。これからもよろしくお願いします。

30 Aug 2026

 



こころの栄養

 朝の散歩道で見つけたこの花は、ショウガ科の「花縮砂(ハナシュクシャ)」。今にもひと雨来そうなダークグレーの空の下、この「純白」の輝きに目と心を奪われました。

 甘く高貴な香りがする。調べると、香水の原料にもなるそうです。キューバ共和国の国花でもある。あらゆる花の例にもれず、この英名「ジンジャーリリー」嬢にも人々と交わされた物語が、これまでいくつもいくつも語り継がれてきたことでしょう。




 一方、うちの庭。この夏の猛暑のせいでしょうか。ピーマンたち、極端にひしゃげたものばかり。




 ピーマンは丸ごと調理すると美味しいと聞きました。種も取る必要はないとのこと。なんと種には、血液をサラサラにする栄養が含まれているそうです。やってみよう。

 季節の変化を敏感に察したのでしょうか?または頑張ってカメムシたちを退治したおかげかな。ピーマンらしいピーマンもようやく、ひとつ、ふたつ、みっつ・・・。 




 白い可憐な花も次々咲いている。ミニトマト退場後、ピーマン劇場が始まってくれたらうれしい。ビタミンCはじめ、栄養いっぱいの野菜ですから。




 あらゆる意味で厳しい夏です。酷暑に大雨。国内外の災害と終わらない戦争に苦しむ人々の姿。誰もが平常心でいられない。毎日のように生徒さんたちと、Zoomで話します。酷な状況に心を寄せながら、どのように自分の心身をキープできるでしょう、と。

 書物やポッドキャストラジオで知識や知恵のある方の話、それから好きな音楽を聴くことは、私の大切な気力の源です。そして創作、絵を描くこと、言葉を紡ぐこと。

 山あり谷ありの中、自分なりに育ててきたお教室を大事に進めていくことも、かけがえのないライフワーク。 Hiro's Art Class は、その時々に変化するオーケストラのような存在。一つの大きな創作なのです。




 10月20日から自由学園明日館のJMショップギャラリーで、Zoomクラス、2年ぶりのお教室展を開催します。案内状を昨日入稿しました。今回も多くのお客さまをお迎えできればと、みんなで準備中です。詳細は追ってまた exhibit のページに更新いたしますね。もう少々お待ちください。

 花との関係のように、長い人類の歴史の中で、芸術や書物は人にとって無くてはならない栄養源。20年前、教室の名前に「ART」と入れたのには、そういう思いがありました。