25 Nov 2018




とりとめのないもの

 「とりとめのない気ままなものに どうしてこんなに惹かれるのだろう」

 これは私世代には言わずと知れた、ユーミン、荒井由実さん(だった頃)の名曲「紙ヒコーキ」の一節。アルバムタイトルまで「ひこうき雲」なので、70年代当時の、ベトナム戦争、アポロ、高度成長期に高層ビル・・・と、自由な空に憧れる空気がよみがえる。

 抽象画というのもまた、「気まま」であるかどうかは別にして、自分にとって「とりとめのないもの」に分類されていて、常に気になる。

 12月のHACで取り上げるのは、1950年前後から美術の中心と言われたニューヨークの抽象表現主義時代を駆け抜けた画家、ジャクソン・ポロックです。

 特にポロックが好きというわけではなかったけれど、圧倒的な存在感は、人に好きとか嫌いとか言わせることを、軽く超えていると思う。年表を見ると、1943年、第二次大戦の時代に、すでにドリッピング描法を始めていたというから驚く。

 前に丸の内のファッショナブルなショウウィンドウに、ポロック的ドリッピングのプリント地でデザインされたワンピースが飾られていて、心奪われた。カラフルで、ポップで、ドレスの生地としてはアバンギャルドでありながら意外に自然で、とにかくあんまり素敵で、しばらく見とれてしまった。それがこの12月の課題の下敷きになっているかもしれません。

 材料の見積もりを出さないといけないので、早めにサンプルを作ってみたのですが、これが面白くてたまらない。

 絵の具が一瞬なりとも、空中に浮いてから画用紙に届く。色が自分の手を確実に離れる。たよりない落下のあと、画用紙にイメージが置かれる。こんな自由な描写経験、初めて! エアブラシだって、手と画用紙の間を、絵の具の霧がつないでいるでしょう? でもドリッピングは違う。自分と画面がくっきり分離している。画布も、絵具も、私自身も、それぞれが一瞬空に浮いているとも言える。

 さてレッスンで、皆さんはどんな感想を聞かせてくれるでしょう。今からとっても愉しみ。

 lesson ページにHAC情報、更新しました。