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2 Mar 2019



ひとつ ひとつ

 展覧会にこんな素敵なリーフレットを作って頂き、本当に有難く思います。「さんしんギャラリー 善」は、三島市の佐野美術館が企画運営し、三島信用金庫本店のレトロモダンな建物のトップフロアに、まるで美術館の一室のように広々とした空間を構えるギャラリーです。

 お話を頂いた時、広い広いギャラリーが、私の小さな作品で埋まる景色を想像できず、少し迷いました。でもぎっしり並べなくてもよいかもしれない。いや、その方がよい。だんだんそんな風に思えてきて、また初期のものや、原画と印刷物の両方をご覧頂くよい機会かもしれないし、いっそレトロスペクティブな展覧会にしたら、と妄想がふくらんで、気付いたら「よし」という気持ちになっていました。

 フルタイムのイラストレーターになってから、33年がたちました。数えきれないほどの絵を描いてきた。どの一点にも思い出がある。その間、自分なりに画風の変化の時を、いく度か超えてきました。

 

 
 そんなことを思いながら、パンフレットのインタビューを迎える前日、「ひとつ ひとつ」というタイトルが浮かんだ。

 これは星野道夫さんの著書『風のような物語』に登場する、ケニス・ヌコンというアサバスカン・インディアンの友人について星野さんが語る想い出から、私が得た、あるキーワードでもあります。

 ケニスは村を離れ、原野の一軒家にたったひとり、昔ながらに暮らす片腕の男です。星野さんたちは、「ケニス、まだ生きてるだろうか」と気にかける。それほど、年齢を重ねている。

 ある時訪ねると、ケニスは4頭のカリブーを仕留めていたそうです。その4頭をどうやって片腕でスモークハウスまで運ぶのか、星野さんは尋ねました。そのときニコニコしながら答えたケニスの言葉は、

  「シチャ(友達よ、というような意味)、
   少しずつ引きずっていくんだ。
   そうするといつの間にか土手の上まで
   動いているんだよ」

 時間というもの、時の尺度というものは、本当は自分だけのものだ。そう教えられました。そしてそれ以上にある種の余韻を感じ、未来への学びを与えてくれる言葉だと直感しました。

 またケニスのこんな様子にも、星野さんは打たれています。


   寝る前に、ケニスはきちんと着替えて床に入る。
   不自由な片腕で脱いだ服を
   きれいにたたんでいるケニスを見ていると
   原野の生活の中で律している、
   ケニスの持つ暮らしの精神のようなものを感じた。


 このケニスという男の話を、私は物事がうまくいかないとき、なかなかいい絵が描けないとき、焦る気持ちに負けそうなとき、思い出してきました。ケニス・ヌコンという会ったこともないアラスカの原野の老人と、その話を私たちに丁寧に伝えてくれた星野道夫さんを思い出しながら、心に唱えるのが「ひとつ ひとつ」というおまじないなのです。

 知らないうちに描きためてきた絵を、どんな風に展示しよう。4月1日の初日を迎えるためには、まだまだやることがいっぱい。ひとつ、ひとつ、と、この手で作業してゆきます。

 3月3日、明日からは、地元沼津の誇る古書店で、素敵な企画展をなさる weekend books さんの「花の降る街」というグループ展に、小さな作品を出品させて頂きます。

 個展、グループ展、ともに、exhibition のページに詳細をUPしました。ご覧の上、ぜひ観にいらしてください。
 





10 May 2018




黄瀬の里

 御殿場が源の黄瀬川と言う川があります。先日ジャズライブに出掛けた裾野市中央公園内にある5つの滝も、黄瀬川の一部です。下流に向かって長泉町には「鮎壺の滝」もある。その流れが伊豆の狩野川に合流する少し手前、沼津市と清水町の境目当たりに、黄瀬の里がある。

 「黄瀬の里」はお相撲の「稀勢の里」とは縁もゆかりもない私の勝手な造語。川を挟んで、東にお花屋さんの giverny さんが、西に古書店ギャラリーの weekend books さんがあり、私にとって地元文化圏の横綱的位置づけというか・・・、あれ、やはり相撲か。とにかくそこへ出かけることは、都会の人が、仕事帰りにちょっと一杯やりにバーへ、みたいな感じといいましょうか。ほっとする。

 何年も前のある寒い夕方、西の weekend books さんへ出掛けた日のことです。ちょうどイベントの「庭マルシェ」の相談会か反省会かをなさっていた。若くて礼儀正しい男性や女性に、高松さんが私を紹介してくださった。私が東京のレッスンを、自由学園明日館で毎月行なっているというと、びっくり顔の人たちがいた。「僕たち来月、そこで結婚式を挙げるんです!」と仰ったのが、何を隠そうお花屋さんの giverny のお二人。日程を伺うと、なんとぴったり私の講座の日時ではありませんか。シンクロニシティ? セレンディピティ?

 ゾゾっとするほどの遭遇のおかげで、光栄にも素敵な結婚式にも参列させて頂き、以来時々お花をお願いしたり、油を売りに行ったり。愛らしい奥さん、Satomiさんは、私が新しい帽子を被って行けば決して見逃さず、「センセイ、かわいい~~」と褒めてくださる。可愛い人から可愛いと言われるのは、二倍にうれしい。ご主人の三保さんは、私と入れ違いくらいにロンドンへお花の勉強に行った方。彼の地での思い出話に花が咲く。トップの写真、ちっちゃなちっちゃな、チーズみたいなお家の置物も、giverny さんで頂いたもの。お花も小物もおしゃれ。




 これは今年 giverny さんにご依頼頂いた、母の日のためのミニカードです。なんの制約もなく、嬉しく有難く描かせてもらえて、デザインまで任せてくださった。母の日の前のお花屋さんは、徹夜態勢での仕事だそうです。今年も頑張られていると思います。このカードが、少しでもお役に立ったなら幸せです。(母の日の切り花やアレンジメント受注は終了されたようですが、鉢物はまだ店頭にあるそうですよ。)

 話戻って「油を売る」と言えば、weekend books さん。giverny のお二人は私の子どもと言っていい年代の方々で、いつも若いエネルギーを充電させて頂くのですが、weekend のおふたりは、ちょうど私を挟んでちょっと先輩のご主人、高松さんと、ちょっとお若い奥さま、美和子さん。知識豊かなお二人との同世代トークは尽きることがない。音楽、映画、本、文化、同じ時代を観てきた者同士の他愛ないおしゃべりが愉しい。

 多くの魅力的なイベントを次々企画されて、大忙しのお二人ですが、なるべくゆったりされているような時を狙ってお伺いする。おしゃべりしたいから。 




 これはアーティストの Uqui (雨氣)さんの作品。weekend books さんでの展覧会で、左と中央のお作品を分けて頂いたとき、「ほんとは10個も20個も欲しい」と私が口走ったのを覚えていてくれて、先日の三島のグループ展のお祝いにと、右のひと瓶をくださった。ちょうどお忙しい企画展の最中でしたから、観に行けなくてすみませんとのお言葉と共に。うれしかった。本当にありがとうございました。

 小さな小さな薬瓶の蓋に、美しい貝殻やサンゴのかけらが金継ぎであしらわれている。ラベルも中身も魔法がかっている。

 どこでどうやって、こんな不思議な作品を作る人々に出逢われるのでしょう。

 


 この13日、日曜日からは「Lu Ra Luu ~ル・ラ・ルゥ~2 あの日の少女たちへ」というお洋服やぬいぐるみやブローチ、ベレー、付け襟、かごバッグなどなどの展覧会が始まるそうです。来月6月3日からは「ドライフラワーミュージアム」、24日からはかごの展覧会「水無月のかごマルシェ」と、案内状も素敵です。




 都内や遠くからもファンが駆けつける素敵なお店。高松夫妻の笑顔とともに、私の木の葉のポスターもお客さまをお迎えしています。(光栄!)

 ぜひ、初夏の黄瀬の里へ♪

6 May 2017



時を超えるカフェ

 5月のはじめの澄んだ空気。皆さま、いかがお過ごしでしょう。

 小鳥の声や鯉のぼりはためく青い空・・・とはかけ離れた写真で失礼します。4月に、なぜか2度も神保町散策をしたときのことを書きたくて。1回目はあまり時間が無かったので、2回目は詳しい友人に面白いお店などを訊いて、すこしゆっくり歩きました。

 その中のひとつ、これは「ラドリオ」という歴史あるカフェ。夜はバーになるらしい。地図を片手にたどり着いた時の衝撃と言ったら! 実はこのほかにもいくつか聞いたお店が同じくこの迫力で、外国の街へ来たような、いえ、不思議の国に迷い込んだような。

 外から薄暗い店内に恐る恐る目を凝らすと、なんと満席の様子。ランチを目当てにか、お勤めの人たちが、次々ブラックホールに吸い込まれるように入っていきます。

 気になって仕方なく、午後1時を回って再び行ってみる。空席が少しあった。意を決して入店。古いソファ椅子に腰を下ろす。・・・あれ、居心地がいい。なんだか「守られてる感」がいっぱいです。さっきまでの不安がウソのよう。ダニエル・ヴィダル的フレンチポップスが、囀るように流れている。鳥の巣にいるような(いたことないですけど)温かさを感じる。




 ナポリタンを頼みました。タバスコにクラフトのパルメザン、懐かしいですね。写真のトリミングで切れちゃったけど、ぽってりしたマグにスープも付いた、見た目を裏切らない、まさに昭和の喫茶店のお味。

 しかし食後に出てきたウィンナコーヒーは美味しかった。あとで調べるとこのお店、ウィンナコーヒー発祥の地!なのだそうです。パンなのかパックなのか、はたまたミノタウロス? シンボルマークの描かれたカップのデザインにも、歴史と誇りを感じます。





 開店は戦後まもなくだそうで、高齢の父があの近くの大学に通っていた時期には、もうあったことになる。父は貧乏学生だったので、カフェやバーに行くことはあまりなかったらしい。タブレットの写真を見て遠い記憶をたどるような表情をする父に、当時の、おそらくはもっと空が大きかったあの界隈の景色を想像しました。




 神保町には他にも画材店、額縁屋さんなど、興味深いお店があった。巡った本屋さんにもまた行きたい。そしてラドリオも再訪したい。こんどは好きな本を携えて。あの店で「読む時間」を味わってみたいです。