10 Dec 2020

 



小鳥たちのために

 小鳥を描きたいという生徒さんに言うアドバイスは、小鳥じゃなくて木の葉を描くような気持ちでまずは形を取りましょう。それから、お顔のこと。特に目の描き方。小鳥の目は本当に愛らしいから、ドギツクならないように。あるちょっとしたヒントをお伝えします。足の踏ん張りの描写も、加点の高い技。

 上の絵は、イギリスで幸運なときにだけ見かけるブルー・ティットという小鳥です。ご覧のように、青い帽子を被っている。ものすごくちっちゃい。ひゅっと目の前を横切るとき、流れ星を見たように幸せな気持ちになる。

 でもこの青い帽子をかっちり描くと、坊主頭の一休さんみたいになっちゃう。だからふわふわっと羽毛を感じさせるように、色鉛筆でやさしく描いてみた。羽の部分にも色鉛筆のタッチを加えています。

 一発でこんな風にうまくゆくことはまず無くて、何べんも失敗して、少しずつシンプルにしながら「私のブルーティット」「私の小鳥」が生まれる。シンプルにする過程で、この小鳥に私が抱く思いが、ギュッと濃縮されてゆく。

 実は今日は大変だった。二階の父の使っていた部屋を来週からの大改造に向かって毎日掃除しているのですが、今年の春、雨戸の戸袋に、たぶん雀たちが巣を作っていた。ピーピーと賑やかだったから、そのことは分かっていた。父は何年もの間、2か所の雨戸を締めきりにしていた。今思えば、さあここに巣を作ってくださいと言わんばかりに。隙間から親鳥たちが入って、天敵からも嵐からも完全にシャットアウトされた、恰好の子育て部屋にしていたのだ。

 困った時にスーパーマンのように助けてくださるSさんにお願いして、掃除してもらうことになった。雨戸を一枚外し、戸袋の中をのぞいたSさんの後ろ姿がギョッとしていた。

 結果を言うと、45リットルのごみ袋にほぼ一杯の藁や小枝が、これでもかこれでもかと出てきたのです。奥の方は、土のように固まっていたという。たいへんな作業の末、窓は何年もの時を経て、全開された。夕日が美しかった。

 この戸袋から、何羽のヒナが巣立ったのだろう。来年からはゴメンネだけど、その分私は、せっせと小鳥の絵を描こうと思う。


8 Dec 2020

 


すべての人の心に花を

 今年は誰にとっても特異な年となりました。瞬きの瞬間みたいにあっという間のようで、眠れない夜のように長かったとも思える。時間の感覚とは妙なものだと、あらためて思う。

 二つの展覧会の間にオンラインレッスンを立ち上げ、その間ずっと家族の介護もあったから、記憶が飛ぶような日々でした。生徒さんにもあらゆるポカで迷惑をかけた。コロナが始まったころ毎朝山を歩いていたのに、それも次第にできなくなって、すっかり運動不足です。

 しばらく展覧会はない。自分の仕事を耕す季節が、久しぶりに始まる。仕事部屋を父が使っていた部屋に移動することにした。父はありがたいことに健在だが、もう階段は使ってほしくないもので、怒涛の一年、物置と化していたその部屋を、思い切って改造することにした。

 床材や壁のクロス、ドアの素材を悩みながら決め、メジャーとメモを片手にIKEAのサイトにどっぷりはまる。先日からは一番苦労に思っていた片付け作業を渋々始めた。がしかし、身体を使う仕事は気持ちいい。この労働の後には、狭いながらも自分の気に入った空間ができ上がり、ここで少人数のレッスンができたらと考えているんです。そのためと思えば、頑張れる。

 イギリス人のアーティストは、仕事場のことをアトリエとは言わずスタジオと呼ぶ。ロンドンに暮らしていた頃は、たびたびあるスタジオに出掛けた。そこにはとてもお世話になった日本人のMさんと、その後家族ぐるみで大事にしてもらった画家のミリアムがいた。

 彼らのスタジオは古い倉庫の一室だった。そこでの思い出は沢山あるが、今やエリザベス女王のオフィシャルな肖像画を描くほどに「超」の付く活躍を遂げているミリアムと、よく食事やパーティに呼んでくれた彼女のお父さんで画家のホセ、お母さんのアルマからは、本当にかけがえのない多くを学んだ。彼らについては拙著『イギリス暮らしの雑記帖』にも書かせてもらった。

 その後ミリアムは、今の住居兼スタジオに移り、帰国後の旅行の際は長く泊めてもらったりもした。そのスタジオが素晴らしかったので、住環境は違い過ぎるものの、若干参考にさせてもらおうと思っています。

 去年訪ねた、キャロライン・ズーブさんのワークルームもよかったなあ。こちらも若干参考にさせてもらおう。

 来年は、すべての人によい一年になりますように。

 その願いもあり、一旦は諦めかけたカレンダーづくりを、東京、沼津のメンバーに背中を押してもらって作りました。このサイトにも、あらたに shop というページを加えてみた。アナログで「名ばかりショップ」ですけれど、よかったらご覧ください。少しずつ、アイテムも増やしてゆきたいです。