4 Nov 2023

 



〇月✕日

 来年のカレンダーの心配をする季節になってきました。毎年制作している、小さな短冊形のカレンダーシート。長らくお世話になっていた印刷会社のデザイナーさんがお辞めになり困っていたら、ありがたいことに新たなご縁に恵まれ、今回からHさんにお願いすることになりました。私と違ってサクサクお仕事の出来る方です。これで安心。

 絵を12枚選んで、データをお渡しする。11月後半には仕上がります。またあらためて画像とともにお知らせさせてください。


〇月✕日

 毎朝ネットで、BBC Radio 3 の 'Breakfast' というクラシックの音楽番組を聴いています。

 以前はこちらの朝の時点で最新のnewsが聴ける、向こうの夕方 'Six O'Clock News' という番組から聴いていた。ウクライナ戦争以来、世界を暗い気持ちにさせる、あまりに酷く辛いニュースばかりがトップニュース。

 それで、クラシックや現代音楽に混じって、簡略にニュースを伝えてくれる、この 'Breakfast' で目覚めることにしました。重大なニュースはちゃんと押さえてくれているので、ここでサマリーを聴いてから、必要に応じてニュース番組を聴く。それもよいと考えたのです。(福島の原発事故の際、海外のニュースをチェックすることの大切さを思い知ったので。)

 選曲がいつも素晴らしい。今朝は、マイケル・ナイマンによるサウンドトラックが話題になった、映画 'The Piano' から、’The Heart Asks Pleasure First’ がかかった。ニュージーランドの女性監督、ジェーン・カンピオンによる、日本では1993年公開の、美しい映像が心に焼き付く映画でした。

 プレゼンターの解説で、この曲のタイトルが、エミリー・ディキンソンの詩から取ったものだと初めて知りました。確かに。ナイマンの調べは、ディキンソンの世界そのもの。

 ディキンソン、それにヴァージニア・ウルフ、ボルヘスは、そう読書家でもない自分がかろうじて出会えた海外文学、謎の御三家なのですが、彼らの世界は理解しようとすると、指の間からこぼれる砂のように、または双眼鏡を逆さに見るように、すーっと自分から遠のいてしまう。理解を諦めたところ、読み手が素になったところから始まる、奇妙で純粋なリアリズムではないかと、これは勝手な独り言です。



 ナイマンのメロディを聴いていたら、ディキンソンをあらためて読み直したくなりました。


〇月✕日

 ニュージーランドには行ったことがありませんが、映画 'The Piano' での感動的に美しい風景や、'The Lord of the Rings' のロケ地のファンタジックな景色など、きっと豊かな自然に恵まれた、素晴らしいところなんだろう。

 inn the park のショップで手に取ったハンドクリームが、そのニュージーランド製でした。いかにも薬効成分ありそうな、西洋の香りがします。ハンドクリームはこの「西洋の香り」を重視して選びます。旅行気分にワープできますから。大容量で安心。パッケージを、夕飯後のデジタルスケッチで描いてみました。

〇月✕日

 ホックニーの展覧会にまた、また、また、行きました。3回目です。あと僅かで会期を終えるので、これが見納め。もう次にホックニーに会えるのは、いつか分かりません。3度目を行かない理由が見つからない。3回とも、別の用事での上京に絡ませました。どうしても絡ませたかった。

 都内に住んでいたなら、たぶんもっと行ったことでしょう。ホックニーは若い頃にロンドンで開催されたピカソ展に、9回も行ったそうです。その気持ちがよ~くわかる。




 魂を揺さぶられる展覧会に、人はその生涯で何回出合うのだろう。このホックニー展は自分にとって、間違いなくその一つでした。

 年齢を重ねた人生の先輩方が、次第に定点観測になってゆくのを見てきました。この世界を去ってゆく先輩方や昔の仲間たちを見送りながら、自分が本当に大切にしていることを見極めて、益々時間を大切に使いたいと思うようになってきました。

 画家が、自分の身辺をしつこく描き続けることも、実感を伴ってわかってくるのです。窓枠、カーテン、外の景色、テーブルの上の静物、庭、近くの風景、なんでもないものへの、過去の記憶を重ねた独自な眼差し。




 庄野潤三先生は、文学の世界でこのことをなさっていらしたのではないかと、改めて思いました。先生のお仕事をさせて頂けたこと、静物の挿絵や装画をたくさん描かせて頂いたこと、その幸運に感謝しています。



 必要なのは「詩情」だと思う。詩が表現するのは、アレやコレではない。ましてや情報ではない。一つきりの「なにか」大切なこと。

 難しい。でも面白い。続けてゆきたい。Mr. Hockney、ほんとうにありがとう。



<おまけ>

 ホックニー展の会場で、思いがけず沼津クラスのお仲間、Nさんとばったり会った。セレンディピティ! その後の約束があった神田でお蕎麦を食べる気満々だった私は、ほぼ強引にNさんを誘い、一緒に「まつや」で美味しいお昼を頂きました。



 「3回も来てくれて、ありがとさん」

 ホックニーが、ミラクルのご褒美をくれたのかもしれません。