17 Nov 2023

 


〇月✕日

 さんしんギャラリー善を、久しぶりにお訪ねしました。

 彫刻家の高須英輔さんの作品を拝見するのは初めてです。なんの予備知識もなく行ったのですが、キュレーターのFさんから、「二の倍数」と聞いた途端、思い出したのが星野道夫さんの言葉でした。

 新潮社の雑誌「Mother Natures」または「Shinra」だった。星野さんは連載の中で、今に生きる自分から遡って何世代か前の人々に思いを馳せると、目を凝らせばぼんやり顔が見えるような気がする、と書かれていた。「顔が見える」・・・。

 文章を細かく覚えているわけではありませんが、イメージが記憶に残った。

 たとえば、まず親が2人、祖父母が4人、そこまでははっきり見えます。その親が8人、その親が16人、そのまた親となると32人。その先も、ご先祖さまは倍に倍に増えてゆきます。高須さんの作品を拝見し、星野さんの書かれていたことと同じイメージを、瞬時に感じました。



 似たピースを使いながら、全く違う彫刻作品ひとつひとつの彫刻が整然と並ぶ。ひとつひとつがご先祖さま、だと想像してみる。

 少しは似たところがあるかもしれないが、皆違う顔をしている。その生活や環境も様々だっただろう。どんな人生だったんだろう。どんな所に住んでいたんだろう。何を食べていて、どんな着物を着ていたんだろう。

 自分と同じように、あれこれ泣いたり笑ったりしたに違いない。長生きした人もいれば、早く亡くなった人もいただろう。

 私が今ここにいるためには、その膨大な数の人生を生きたご先祖さまたちが必要だったわけで、自分は何か大切なものを彼らから引き継いでここにいる。彼らだけでなく、その周囲にいた人々、影響を交換した人々も含めたら・・・。

 時間をかけて作品を感じながら、何十年も前に読んだ星野さんの言葉が、一層深く胸に刻まれる、貴重な機会でした。



 ところで、前の晩にみた夢に階段が出てきた。高須さんの作品にも多くの階段たち。ここで観るものを、予知したのでしょうか? ・・・だったら益々面白い。

 イマジネーションの湧く、素晴らしい展覧会でした。企画してくださったFさんに感謝です。


〇月✕日

 寒い朝。Frosted fields。


 きまぐれな朝歩き。しかし前回と、世界が全く変わっていました。気温が急に下がったのです。




 草の表面にびっしりついた霜は、葉っぱの産毛に結晶するのでしょう。棘のようなもの、ザラメのようなもの、いろいろある。しかしどれも、奇跡のように美しい。

 Instagram にBGMをつけるのがマイブームです。この画像には、ロジャー・イーノとブライアン・イーノのコラボレーション、'Wintergreen' という曲をかぶせました。アンビエントミュージックです。

 一昨年、眼の手術で入院したときに、ベッドで彼らのアルバムをずっと聴いていたのを思い出します。


〇月✕日



 小さな庭の花壇と鉢に、球根を植えました。春咲く花の球根は、一回とことん寒い思いをさせること。そう聞いたので、11月、遅くとも12月には植えないといけないと、いつも自分に言い聞かせています。ここ数年は様々に心に余裕がなかった。今年は球根復活祭!ということで、調子に乗って奮発しました。70球購入。

 花壇の土には、石灰と油粕を混ぜ込んでおいた。気合が入っています。

 鉢にはMさんが長野で買って来てくださった、私の大好きな花、フリティラリア・メレアグリスを10球。これはぜひとも開花させたいので、普段は使わない「赤玉土」というのを初めて手に入れ、培養土に混ぜ込んでみました。

 


 この金木犀の根元のスペースには、この間まで「地獄の窯の蓋」と「らんまん」で万太郎が言っていたキランソウ、アジュガを植えていたのですが、ウドンコ病っぽくなってしまい、思い切って8割がた引き抜いた。

 残ったアジュガには、薬を散布。なにせ、このジゴクノカマノフタはここがたいそう気に入ったらしいから、きっとまたどんどん増えてくれる。次は気をつけて間引きながら、病気を防いであげればいい。

 ではこの花壇に何を?・・・そうだ、チューリップ! サカタノタネはお徳用が売り切れ(数日前にはあったのに!) かろうじてタキイ種苗で、50球の袋が少し残っていた。助かりました。

 メインはピンクのふっくらしたチューリップにしました。そこに少し変わったものを5球ずつ4種類加えた。

 春が待ち遠しいか?と言えば、冬好きの私は、まだそうでもありません。でも3月の個展を終えた後で、ここに一杯の花が咲いたら、きっと疲れが癒される。水彩レッスンで、描くこともできる。

 


 冷たい地面の中でじっと眠って、眠って、そのうちほんのわずかな春の気配を察知したら、空に向かって芽を伸ばす。

 冬の間、庭に出るたび想像しよう。すやすや眠るドワーフのような、愛らしい70人の球根くんたちがここにいることを。

 人類に残された資源は「想像力」と「創造力」だけ、なのだから。