18 Aug 2020

 


オラファー・エリアソンの言葉

 昨日の続きです。

 私は言葉に支えられ、言葉に守られて生きている。ずっとそう思っている。もちろんほかのさまざまな外界、絵を描く自分にとっては特別に、景色やオブジェ、自然物、人工物、もちろん人の笑顔、表情、哀しみにさえ、とにかく目に映り触れられる、この世界のすべてに支えられている。

 それでも、言葉は特別に重要だと思う。特に「詩」精神は、人が発明した、最も崇高な救いの一つだと思う。

 若い日々に言葉の不思議を教えてくれたある方が、「詩人には家がない」と言ったのが忘れられない。「画家には家があるでしょう? 芸術家、音楽家、工芸家、作家、文筆家、みんな家がある。詩人には、でも、家(と言う字)がないでしょう?」 

 昨日のオラファー・エリアソンの言葉を、画面を止めながら書き写してみた。

 「私たちはものごとの見方を知らないがゆえに、いろんなことが見えないと思うんです。でも見方を変えれば見えなかったものが見えてきます。」

 「それは不可能なことを可能にすることに通じます。見方を変えれば、川は橋となるんです。世界をよりよく理解するために、見方を変える。知覚を変化させる。そういう意味です。」

 「今まで見えなかった『時間』が、ほんの少しの水と波だけで見えるようになったんだから・・・。環境や気候に関してもそうです。見方を変える、知覚を変えることで、地球を今一度理解し直さなければならないと思います。」

 表現の手法は問題ではないと、オラファーは言う。

 「アートとは、ひとつの言語であり、形式です。より重要なのは、そのアート作品がなぜ作られて、なにを伝えようとしているのかです。伝えることによって、使う言語も変わってくるでしょう。」

 「ただ私の場合、より、詩的な言語を使いたいと思っています。」

 詩精神。

 「美術館には美術をよく知る人だけでなく、あまり知らない小さなこどもやお年寄りにも来てほしい。初めて来た人にとっても、居心地のいいところにしたいんです。まるで私と一緒に、あなたが展覧会を作っているような気持ちになってほしい。」

 「私は創作者ではないし、あなたは消費者ではない。私とあなたは、共同制作者なんです。」

 人々が美術館に来られない今、アートが自宅にやってくるということや、自然を部屋の中に取り入れることが出来ると、オラファーは考えている。

 「確かに今、私たちは物理的に離れています。でも社会的にはつながっていなければいけないと思うんです。その役割をアートは担うことが出来ると思います。なぜなら、他の手法では表現しづらいことでも、アートであれば表現することが出来るからです。」

 「『アート』はただ鑑賞する対象ではなく、プラットフォームのような場所なんです。人々が集まり、それぞれ違う意見を言い合い、その意見を尊重するところ。そんな場所がアートなんです。」

 14年前、自分の始める講座に名称を付けなくてはならなかったときに、「アート」と言う言葉を使うべきだと思ったのは、教室を限定されたスタイルに収めたくない思いがあったから。おかげで私のクラスには、初心者、経験者入り混じった、様々に探究心のある方々が集ってくれています。可能性が無限。コロナ禍で始めたリモートレッスンからも、それを強く感じていたところでした。HACもHICも、みんなのプラットフォームになってほしい。そして常にそうでありたい。

 「アート単体では解決策にはなりません。でも物理的ではなく、社会的につながることのできるアートと言う場所で私たちが対話を交わすことで、今何が重要なのかを考えることが出来るのだと思います。」

 リモートでつながったベルリンのスタジオ。アーティストの後ろに、ギターが一本立てかけてあったのが印象に残った。

 詩人には家がない。光のように自在な存在。

 光をありがとう、オラファー・エリアソン。