マイちゃんと台所
相変わらずバタバタしていますが、一つうれしいことは、昭和の台所に「ホワロ」が来たこと。壊れないものだから、古いガステーブルの部品を交換しぃしぃ、相当長い事使っていた。でももうこれだけ使ったんだからいいだろう。とうとう新調した。
ホワロはリンナイから出ている、通販オンリーの真っ白いガステーブルです。今はシステムキッチンの素敵なビルトインをお持ちの方がほとんどだろうから、もはやあまり知られていないことかもしれない。市販のガステーブルには真っ白と言うのがまずない。近いものがあっても、スイッチのあたりにでかでかと文字の説明があって、すっきりしたものがない。
これは最近出た新バージョンで、旧バージョンよりスイッチがスタイリッシュ。今まで掃除が面倒で使うことがなかったグリルもすごく有能。「ココットプレート」というのが付いていて、付属のスリットのある蓋を使うとグリル内部のお掃除が(ほぼ)必要ないのです。チキンにハーブミックスを振ってただ焼くだけでも美味しい。余分な油も落ちる。それからお野菜のグリルは今まで電気オーブンでちんたらやってたんだけど、ずっと早く美味しくできる。茄子の焼きびたしなども億劫でなくなった。
そしてなによりうれしいのが、お鍋をかけた時、背景が白い事。白い画用紙に絵を描く気持ちで、お料理ができるから。素材の色が、目にはっきり映る。それだけで今までよりずっと愉しい気持ちで台所に立てる。
青梗菜と豚肉の炒め煮 |
チキンと長葱のクタクタ煮スープ |
タラと野菜のアクアパッツァ風 |
ニック・ジャガーこと、肉じゃが |
マクラが長すぎました。タイトルの「マイちゃん」の話。
マイちゃんは、麻衣ちゃんでも、舞ちゃんでも、真衣ちゃんでもなく、マイケル・ジャクソンのことです。彼はわたしやマドンナや百恵ちゃんと同い年で、生きていればちょうど節目の年だ。今まで実は、ほとんど気にして聴いたことがなかった。あんなに人気だったのに、若い頃仕事でいくらか関りもあったのに、まったく興味が持てなかった。
それが、よく聴いているBBCの 'Words & Music' という好みのラジオ番組があるのですが、そこで一曲聴いてボッ。着火しました。
その記念すべき曲とは、「スリラー」の一曲目 'Start Something' 。ちょうど年が変わる頃だったし、新しい仕事やプロジェクトも始まって、気持ちにしっくりきた。マイケルは(昔の同僚はみな、まるで友人でも呼ぶようにそう言っていた)こんなにすごかったのか!と、何十年もの時を経てようやくわかった。
その後、また同じ番組でこんどは「Bad」から、'Man in the Mirror' がかかった。これもよかった。
というわけで突然変異的に、毎日のようにマイちゃんを聴く日々となりました。
ではなぜマイケルでなく「マイちゃん」なのか。これは料理家の平野レミさんがそう呼んでいたからです。平野さんはマイケル・ジャクソンが大・大・大好き。もう何年も前に、どこかでレミさんがそう言っているのを観た。
夫の和田誠さんはそんなレミさんに、マイケル特製時計をプレゼントするなど、理解があったように思えた。でもある日「マイちゃんは天使だ」と言うレミさんに、「天使は整形しないだろ」。それを聞いたレミさんは怒った。しばらくご飯を作らないくらい怒った。そのことを話すレミさんの表情が、何とも言えなかったのです。遠くを見るような、悲しさと怒りと諦めと決心とが入り混じったような、言葉で簡単に表現できない表情でした。
レミさんのお父さん、仏文学者の平野威馬雄さんは、戦後日本で生まれた多くの恵まれない混血の子どもたちを保護し、ご飯を食べさせてあげた人。そんな平野家でレミさんは一生懸命お手伝いをして、幼い頃から料理の腕を上げたのだと、それは以前から知っていた。
イギリスにいた頃、TVのトークショーにダイアナ・ロスが出て、マイケルのことでネガティブな質問をされたのを観たことがある。その時彼を擁護するダイアナ・ロスの表情も、レミさんと似ていた。
マイケル・ジャクソンの歌をイギリスのラジオ番組で聴きながら、これらの話全部が思い出された。
マイちゃんの歌を聴きながらだと、どんなに忙しくても元気が出る。よし、やろう!という気持ちになれる。そんなパワーがみなぎっている。
夕飯を作るのがしんどいときも、私にはマイちゃんがいて、ホワロがある。よかった。