30 Mar 2020





自分の身に起きることはすべて

 搬入完了。厳戒態勢とも言える東京へ行くのは正直気が重かったですが、ACギャラリーに到着すると、オーナー夫妻がマスク姿の笑顔で待っていてくれて、心底ほっとしました。

 夫妻とは美術大学が一緒で、たぶん構内ですれ違ったり、同じ講義を受けてたりしていたかもしれません。共通の友人もいる。だからでしょうか。ずっと会っていなくても、なんだか昨日も会ったような気持ちになる不思議なお二人。本当にお世話になっている。

 飾りつけのテンポもよく、またいろいろな話もでき、しばらく重い気持ちだったのが、救われました。




 全28点、ちょうどぴったり壁に収まった。

 写真作品とは言え、会場で直にご覧頂けたらどんなにいいだろうと思う。しかし今回は、手放しで来てくださいとはとても言えません。どんな会期になるかわかりませんが、いずれにせよ、思い出に残る個展となりそうです。(在廊日は、exhibit のページをご覧ください。)

 


 ここのところ、寝る前読書はボルヘスばかり。自分がかなりヤバイときに読む作家の筆頭がボルヘスです。読書と言っても、疲れきってほぼバタンキューなので、傍線を引いたところを読み直すくらいですが。


   作家あるいは人は誰でも、自分の身に起きることはすべて
   道具であると思わなければなりません。あらゆるものは
   すべて目的があって与えられているのです。この意識は
   芸術家の場合より(「より」に傍点)強くなければならない。
   彼に起きることの一切は、屈辱や恥ずかしさ、不運を含め、
   すべて粘土や自分の芸術の材料として与えられたのです。
   それを利用しなければなりません。

  『七つの夜』 / ホルヘ・ルイス・ボルヘス著 野谷文昭訳 より



 この部分を、今まで私は何べん読み返したことでしょう。

 ひと気のない灰色の銀座を目の当たりにし、コロナへの不安はいや増しますが、帰りがけ、デザイナーと陶芸家である赤瀬夫妻とも似た話をしてギャラリーを後にした。しばし清々しい思いで満たされました。 

 ACギャラリーでは、会期中、Web ギャラリーを開設します。URLが分かり次第、またこちらとインスタグラムでお知らせいたします。少々お待ちください。お運びいただけなくても、そちらで私の新しい試みをご覧頂けましたら幸せです。よろしくお願いします。