30 Mar 2016




ユマニチュードの調べ

 先週の土曜の夜、沼津市のプラサヴェルデにて拝聴した、あるお話に感動しました。それは認知症ケアの現場で提唱されているメソッド、「ユマニチュード」についての講演。昨年表紙画を描かせて頂いた『介護民俗学へようこそ!』の著者、六車由美さんが進行役を務められ、講演の後、講師の本田美和子さんと六車さんの対談も行われました。

 「介護」の二文字が他人事でなくなってきた身として、また50代も半ばを過ぎ、内にも外にも起こる変化、生活のリズムやテンポの変調などともなんだかぴったり重なる思いがし、すごく勉強になった。



『ユマニチュード入門』 本田美和子、イヴ・ジネスト、ロゼット・マレスコッティ・著(医学書院)


 ユマニチュード(Humanitude)については、時々TVで紹介されていますから、耳に記憶のある方もいらっしゃるかもしれません。ここで私のような素人が要約できることではないのですが、「介護する側」がユマニチュードを意識し変化することによって、「介護される側」に劇的な変化が起こる。映像をまじえて説明されるその実際の効果には驚きました。抵抗しかする術のないお年寄りが見る見る心を開くさまは、花のつぼみがほころぶように美しいシーンでした。

 この貴重な講演を体験して自分なりに胸に刻まれたことは、何かを丁寧に行うことで生じる平和な空気や気持ち。そしてそれらがもたらしてくれる、「よきもの」、「よきこと」のこと。

 実は「小さな丁寧」が、ヒソカに最近の私のテーマなのです。「くらしのきほん」の松浦弥太郎さんみたいにはとても行きませんが、必用にかられて得たささやかな知恵。

 自分をパソコンに喩えたら、10年前、いや5年前と比べても、かなりメモリーが落ちている。今までその気もナシにできていた小さなことが、ヨイショと思わないとできなかったり、いっぺんに様々なことを同時進行できない。これは、老眼になった時と似たショックです。

 そのとき素早くできない自分に苛立つのではなく、そうか、丁寧にすればいいんだと気付いた。そのことで、仕事自体を愉しめることを発見したんです。

 たとえば外出の時間までに5分もないとき。しかも洗濯物を干してから出かけなくてはならないとき、以前ならアクセルを踏めば難なくスピードが上がった。でも今は、スピードを上げると途端にでこぼこ道になり、つまづいたり失敗したりして余計に時間がかかったりする。だから「とにかく急いで」と思うより、「丁寧に」と思うことにしたんです。するとピンチにものが引っかかったり、重なった薄物がなかなかはがれない、なんてことが減るのです。結果、思ったより早く仕事が終えられ、ストレスもない。

 ユマニチュードには介護の仕事の中に生きるいくつもの技術があり、それを知ることはもちろん大切だけれど、その技術をどういうときにどう使うかという「選択」ができることこそが大事と、本田さんは仰る。そこに私なりの感想ですが、「丁寧」の調べを感じたのでした。

 またユーモラスに、こうも仰っていた。「たとえやさしくない人でも、『やさしさ』を技術としてやっていくと、人は次第にやさしくなっていきます。やっていることと考えていることの差が大きいとつらくなっていくから」と。介護する側に起こる変化は、六車さんの「介護民俗学」にも通じ、これがなにより先ず大事なことなのだとあらためて思いました。

 考えたら私の小さな丁寧は、自分への介助なのかもしれません。

 ユマニチュードについては、4月11日のNHK「あさいち」で特集があるそうですから、よかったらぜひご覧くださいとのことでした。ご興味のある方はその前に上の本も読まれたら、きっと好い予習になると思います。