6 Jul 2016



心の内側の空間

 先日、クレマチスの丘で行われた、建築家の中村好文さんとデザイナーの皆川明さんによるトークイベントに、ウィークエンドブックスの美和子さんが誘ってくれて、ご一緒してきました。クートラスについての語らいでした。

 私はお二人のことについて、恥ずかしいほど存じ上げていないのですが、皆川さんのミナ・ペルホネンの展覧会が、昨年ちょうど自分の表参道での個展と同じ時期でしたから、スパイラルで観ることができた。ファッションとかインテリアとか、アートとかコマーシャルとか、カテゴリーの垣根をまったく感じさせない、自由で愉快な見応えのたっぷりとある展覧会だった。

 中村さんはもっと気難しい方かとよく知りもしないくせに勝手に想像していたのが、冗談をいっぱい放って会場にリラックスの空気を広げてくださった。生前のクートラスに会ったときのこと、当時共通があると思った有元利夫さんの絵とクートラスの絵の違いについてのお話などが、興味深かった。

 皆川さんが話された、「心の内側の空間」についての話がよかった。クートラスのカルト(カード)にはひとつひとつの中に夜が閉じ込められている。心の内側にある、生き物までいるような広い空間。一生に描ききれないほど、限りない世界。

 空想の領域の豊かさ。全ての人は、それぞれの空想の広い領域を持っているはず、と皆川さんは言う。その世界は、「時間」とともに進むことから、人をしばし解放させる。

 前に、これはどこで読んだか、誰の言葉か、忘れてしまったけれど、時間と言うものを川に喩えたら、その一方向への流れに対し、直角に架かる「橋」というものがある。それが「詩」なのだと。そのことを、別の言い方で言われたのかなと、今思う。

 中村さんはよく双眼鏡でものを観るという。美術館に行ってそこにしか焦点の合わない双眼鏡で、彫刻作品などを観るそうです。こんど真似しよう。皆川さんはルーペをかけて絵を描く。私もルーペをかけるけれど、皆川さんが仰る「もぐるように対象を見つめる」ことは、意識したことが無かった。これもこんどやってみよう。

 また、マイナスに思える感情の方が、自分を安心させることがある、と言う話。仕事をしている時間と、静かな時間があったなら、仕事の時間に価値を置く考え方が、まあ一般的。しかしむしろ静かな時間の方に価値があるように思うと仰っていた。内面の生活。そのような時間を沢山持っていないと、仕事にならない、と。

 6月のイベントでの青木和子さんとの会話の中、だったか打ち合わせの時の会話だったか、同じようなことを話したのを思い出します。私たちはもっと単純に「ボーっとする時間がないとだめですよね」、「そうそう、だめよね」。そんなことを話した。仕事に取り掛かるまでの、他人が見たら非常に非生産的な時間こそが、創作へ向かうのに無くてはならない肥料のようなもので、皆川さんもそのことを仰っているのかしらと、勝手に共感。庭造りは土づくりから、か。

 会場では、あの方にも、あの方にも、あの方にも・・・会えてうれしかった。ロビーでは皆川さんにサインを求める列もできて、お二人のファッションの素敵さも、目に焼き付けました。どんなお洋服?とご興味のある方は、weekend books のインスタグラムをご覧ください。美和子さんが後姿をキャッチ。いつ撮ったんだろう。一緒にいたのにまるで気付かなかった。

 独自でいることに違和感を持たない人たちに会えて、また静かなエネルギーを得た、気持ちのいい午後でした。クートラスのおかげです。




 上の写真も下の写真も、こんど9日から銀座ACギャラリーで始まる、「ジュエリーとBOX展」に出す箱たちです。古いイギリスの本のページ(1700年代の物も!)や手書きの手紙、抽斗の中をかき回すと出てくる愛すべき小さなオブジェで作りました。もとはマッチ箱。目の前にある目立たぬ何かから、ここにもどこにも無い何か、を作りたい。明日中に中身も仕上げて、ギャラリーに発送します。