21 May 2016



絵を描くこと

 もうだいぶ前に、UK版 Country Living に描いたイラストレーション。他のページのレギュラーもあり、水彩のみで描くスタイルとは変えて描いてほしいとアートディレクターから言われ、ペン画で試みたもの。短いシリーズでしたが愉しく描かせてもらった。表面のラフな水彩紙に、細いペンが引っ掛かる。カリカリ描く感触がちょっと快感の技法です。

 ペンでドローイングして水彩でサッと色を着ける絵は、18世紀にウィリアム・ホガースが活躍し、銅版画でカリカチュア(風刺画)が盛んに描かれた時代の名残なのか、イギリスのイラストレーターに多いスタイルだと思う。恩師である絵本作家のキャロリン・ダイナンも、彼女の夫のロイ・スペンサーも、ドローイングの名手でした。

 彼らのヴィクトリアンの広い家を今思い浮かべると、玄関ホールやダイニング、シッティングルームにはもちろん、トイレやバスルームにまで、額装した作品が飾られていた。脱衣室ではなくて、バスタブのあるバスルームに、です。雨は多いけど、日本みたいに湿度の国と言うわけじゃないので、そんなことも出来ちゃうんですね。

 キャロリンの教え子のイラストレーターの作品が、ダイニングルームに一点飾ってあった。すでに何冊か絵本の仕事をしていて、私も本屋で観たことのある画家でした。彼女の絵は、どれも右に傾いている。右利きの人が絵を描くと、デッサンが少し右に傾くものですが、少しと言うよりははっきり傾いている。

 その絵を観たとき、絵を描くことの自由を思いました。日本に居た頃、次々と仕事をこなし、「こうであらねばならない」方向へ自らを追い込んでいた自分に、「どんな絵だっていいんだ。その絵に力があれば」と、教えてくれた絵。そんなことを、先日の沼津クラスでお話した。

 幼い子どもたちは何も考えずに、いきなり白い紙に色をこすりつけて行く。大人のように「よく見せたい」なんてみじんも思わず、美しい色の粒子が刻々紙に着いてゆく快さのみをよろこぶ。その感覚を忘れたくないといつも思います。絵に備わる大きな力は、まさにそこから生まれると思うからです。

 HIRO'S ART CLASS でも、6月から、今までよりも水彩やドローイングに重点を置いてやってゆきたいと思っています。ご安心ください、コラージュの技法も加えながら、です。まずはサマー・グリーティングから。小さな作品を、ゆっくり練習してゆきましょう。