20 Jan 2016




手紙についての本、二冊

 一冊は、尊敬する庄野潤三先生の『インド綿の服』。生田のご自宅で起こる日々の出来事や思い出と、長女の夏子さんからの弾むようなお便りとが、時間の海原で隣り合って遠泳を愉しむ仲の良い水泳選手みたいに、行きつ戻りつ平行に進んでゆく。

 「インド綿の・・・」というタイトルから、まず太陽の光を感じる。本の中には四季があるのに、そして中には厳しい苦難の日々も、サラッとではあるけれど語られているのに、なぜか悠々とした長い夏休みの麦わらの匂いがするこの一冊を、「最近パッとしなくてさ」、なんて思っている誰かに贈りたい。地面からの作物を渡すように、躊躇なくサッと差し出したい。

 ユーモアいっぱいの夏子さんの手紙には、日常のほんのちょっとした出来事が持つ面白さがキラキラ瞬いている。その小さな光を見逃さずに掬い取る夏子さんの、まるでローラ・インガルスの「母さん」のような働き者の両手で実感された日々の手触り。イギリス人の友人たちが、リスの手でも見るように不思議がったこの小さな自分の手にもそのスピリットが瞬時に伝わってきて、ヨシ、私も何か新しいことをやってみよう!と思えてくる。本を読んでそんな気持ちになることほど、幸福なことはありません。

 こんな風に、庄野先生の目を通して(届いた手紙は奥さまが声を出して読まれたそうなので、正確には耳を通して)本の中に描かれた手紙の数々に、読者はすっかりとりことなってしまうのです。

 もう一冊は昨年の秋に出版された『手紙のある暮らし』。庄野先生と須賀敦子さんの文学をこよなく愛する人生の先輩、Mさんからのプレゼントです。手紙書きを愉しむ様々な人々が紹介されているこの本の中に、Mさんのお嬢さまである須長理世さんも登場!(須長さんは軽井沢の北欧雑貨と家具のお店「ナチュール」のオーナーです。) 

 交際中だったご主人への自ら描かれた絵葉書や、ご家族であるMさんたちからのおしゃれで可愛くてあったかいカードが、6ページにも渡って紹介されています。Mさんのお心の豊かさはかねてから存じ上げていても、そうか、お母さんとしてもこんなに大きな方なんだと、あらためて感動しています。そしてその手紙を宝物にされている理世さんも、きっとMさんのように、これから大きな大きなお母さんになられてゆくのですね。

 矢野顕子さんの歌にもあったけれど、「手伝う」とは、「手は伝える」ということなのだと、あらためて感じるこの頃です。

 現在、沼津市の weekend books さんでは、手紙にまつわる展覧会、「綴る、春。―手紙まわりのあれこれ―」が開催中です。24日の日曜日には、ささやかながら私もワークショップを行います。詳しくは weekend books さんのブログをご覧ください。

 さて明日は、プラサヴェルデでレギュラーのクラスがあります。初参加の方、久々に 'Welcome back' の方もおいでで愉しみ。手紙っていいなーと思いながら、1月のテーマである、自分だけの切手を作ります。寒いけど心はぽかぽかと、愉快な時間を過ごしましょう。