18 Jun 2025



Stepping Stone

 昨日のレッスンで作ったこのポケットスケッチブックのことを、メンバーのYさんが「チビスケブ」と名付けた。「紫式部」みたい。由緒正しき響き(?)が気に入った。

 この夏で20年目を迎える Hiro's Art Class。講師が「こんなもの欲しいな」と思ったものを作る無手勝流で、ありとあらゆるハンドクラフトを作ってきました。メンバーの皆さん、よく付き合ってくださり、面白がってくださって、あっという間の19年でした。

 最近は、講師が準備する素材や道具は最低限、または無くてもできるアイデアを試みています。周囲を見渡せば、皆さんすでになにかしらの素材をお持ちだからです。

 コロナ禍の波にもまれた後、オンラインや自宅での少人数レッスンを通して、お一人お一人の個性を今まで以上に感じるようになりました。みんなで同じ素材、同じものを制作するのではなく、それぞれの生き生きとした感受性を発揮して頂いて、それぞれに合ったレッスンをしたい。水彩クラスでは一足お先に試みていて、よい結果を生んでいます。コラージュとクラフトのレッスンでも、同じようにと少しずつ軌道修正しているところです。

 今回も思わぬアイデアが生まれたり、お手持ちの素材をうまく生かしてくださった。おそらくレッスンの後で一層アイデアが湧いてくるのでは? 私の投げかけるアイデアはシンプルであればあるほどよい。しかし可能性をはらむもの、ワクワクする「何か」でなければなりません。


 この形のミニスケッチブックは、以前イギリスの友人たちに頂いたものを参考に作りました。この通りに作らなくてもよいので、お手持ちの布を使ったり、厚紙を使ったり。工夫すること、自由な発想を形にすることが、脳と心を活性化させます。


 こちらは紙と布でカバーを制作。スナップボタンのパチンという音が快い。やったー!と思ったら一つ失敗に気付く。この位置だと、左ページに跡がついてしまうのです。次に作る時は要工夫。

 失敗には意味があります。こんな小さな何かでも、失敗なしに作ろうとすると心が固まってしまって、のびのびとしたプラスアルファが生まれません。自分で転んで、自分で学べば、この先忘れることもありませんし、失敗が成功のもとであることをこうして身をもって感じれば、生きていく過程での励ましにもなる。大げさなようですが、心からそう思います。 

 Failure is the stepping stone to success.

 願わくば、この「チビスケブ」のページのいくつかが、自分の絵を育てるちっちゃな布石となりますように。

9 Jun 2025




鉛筆

 鉛筆は最も身近な筆記具であり画材です。誰もが幼い頃、掌がまだちっちゃなもみじみたいだった頃から手に馴染み、削りながら大事に使うことを心得る。この筆記用具には、木の匂い、芯の匂い、紙への抵抗、デジタルドローイングでは味わえない趣があります。

 道具として歩んできたその歴史を調べてみると、誕生の地はイギリスでした。1560年代に鉱山でみつかった高品質の黒鉛をそのまま、または糸で巻いたり板にはめこんで使ったのだそう。

 そのうち硫黄の粉と練り固めて、1760年にドイツのカスパー・ファーバーが進化させ、「芯」化。カスパー・ファーバーは、ご存知、ドイツの文房具メーカー、ファーバー・カステルの創業者です。

 


 木の匂いはよいものですが、この全身黒鉛のグラファイト鉛筆は安定感抜群。よく使います。鉛筆にしては少々値が張るけれど、amazonで求めることができます。




 お次はフランス。画家であり化学者でもあったニコラス・ジャック・コンテという人が1795年に、黒鉛を粘土と混ぜ焼き固めることにより、芯の硬度をアレンジできるようになったとか。そうやって今使われている鉛筆の「芯」に「進化」(シツコクテスミマセン)していったのだそうです。スケッチや素描に使われるコンテ(黒や茶の角形棒状のチョーク)は、彼の名から来ている。

 最近、イラストレーターを目指していた若い頃、盛んに使っていたコンテ型のハードパステルが出てきて、新たな気持ちで使い始めています。硬度があるから、ハッチング(斜線の集合で描く事)が可能。粉にすることも可能です。何十年も経てこその発見もあるかもしれない。




 絵には「動き」が必要だと思う。気をつけて観ると、どんなに静謐な世界であったとしても、時代を超えて愛されてきた絵画には大きな、または微かな動きが表現されている。動きがあれば、観る人がその絵に感じるものが立体的になり、時間も感じる。自分が描いているような気持ちになることさえある。描かれた世界に入りこむ事が出来るのですね。だからこそ共感され、愛される絵となる。「動き」について、この画材から学ぶことは大きいです。

 色鉛筆は、昔からイギリスのメーカー、Derwent の水彩色鉛筆を使っています。水を使ったり、水彩とのミクストメディアとして使うこともあれば、そのまま普通の色鉛筆のように描くこともあります。色調で分け、立てて使うと、パッと取り出しやすい。いつまでもお行儀よくケースにしまって置かないでねと、生徒さんたちにもお話します。




 このスケッチは、普通の色鉛筆として使い描きました。筆圧とハッチングの向きに気を配って。



 田植えの季節ですね。先日、新幹線の窓から「おお、お米よ!」と水田を写したら、手前の木々が色鉛筆画のように! 偶然の産物に、また鉛筆愛が高まりました。



3 Jun 2025


 


It's a Good Day

 イギリスのジャズシンガー、Clare Teal のアルバム 'They Say It's Swing' で知ったこの曲は、ペギー・リーと当時の夫、デイヴ・バーバーが作曲した1946年のヒット曲。instagramの投稿にはBGMとしてシェアしました。

 歌詞を読むと、「大河 蔦重」の一週前、太田南畝が放った「めでたし」に通じる人生讃歌に思え、訳してみたくなった。

 
  歌を歌うにめでたき日
  前進するにめでたき日
  何も間違っちゃいないよね
  朝から晩までめでたき日

  靴を磨くにめでたき日
  鬱を払うにめでたき日
  得るはあっても失うはナシ
  朝から晩までめでたき日

  お天道さんにおはようさん
  日は上り輝いてる
  すぐに出発できるよね
  ここゾと気合を見せたなら
  通行証は君の手に

  病気を治すにめでたき日
  料金払うにめでたき日
  深呼吸しよう 薬を捨てよう
  朝から晩までめでたき日



 レッスンの無い日はたまっていた片付け作業、庭仕事、欲しかったものを工夫して作ったり、絵を描きたい気持ちをちょっと脇に置いといて、さもない「めでたき事」をするのが愉しくてなりません。

 この日は、だいぶ前にインテリアファブリックの某輸入会社で求めたサンプルの布を正方形に袋縫い。パン生地を発酵させる際の保温用カバーを作りました。この生地が好きで好きで、以前ひざ掛けに仕立てて、クラフトの個展に出したこともあります。料理研究家、野口英世さんが気に入ってお求めくださり、ブログで紹介してくださったのは有難き思い出です。

 ウールのように見えるけれど、ずっしり重くてちょっとひんやりする。麻、または麻と何かの混紡だと思う。ソファーのカバーやクッション、カーテンなどに使われる上等な布。色も明るさの中に落ち着きがあって好みだし、こんなのもう二度と出逢えないよなぁ・・・。そんなわけで残り数枚を出し惜しみ。なかなか手が付けられずにいたのでした。

 でも、そんなこと言って後生大事に取っておくような年齢ではなくなってきました。好きな物はどんどん暮らしに生かすべし、です。

 コラージュクラスもその方向へ向かっています。新たに素材を買うこともたまにはアリですが、なるべく「今ここにあるもの」をめでたき何かに生かそうという試みを実践中です。またこちらでもご紹介したいです。